この物語はうみねのこなく頃に本編とはまったく別のカケラ世界の物語です、独自解釈キャラやオリジナルキャラも登場します。

 
  
ベアトリーチェの庭園物語 庭園の危機!? アシュタロン襲撃?編

  
 
アシュタロン率いるフロスト騎士団の動きは素早かった、二百人足らずという少数精鋭だけあって機動力は高くベアト達が気が付いた時にはすぐ傍まで迫って来ていた。
 「……何ともとんでもない事になってしまったようだのぉ……」
 「……ごめんなさいベアト、その……あたしのせいで……」
 ベアト邸の一室に集まり善後策を考えているのはベアトリーチェの他には戦人とエンジェ、そしてワルギリアにロノウェと今回の件の原因とも言えるエターナルである。
 「今更言っても仕方あるまい、それにお主がバアルに従うのを良しとしないのはお主の自由であり妾達がとやかく言う事ではないわ」
 「そうだな、攻めてきてんのはバアルって野郎でお前が悪いわけじゃねえ」
 「……ありがとう二人共……」
 こんな事になってしまい激しく責められるのを覚悟していたエターナルはそう感謝の言葉を口にする、そして彼らを守るために全力を尽くそうと誓う。
 「とにかく向こうから来るっていうなら叩きつぶすしかないんじゃないの?」
 「……エンジェの言う通りだな、売られたケンカは買うしかねえぜ!」
 「落ち着きなさい二人共! 相手は仮にも魔界の一国を収める魔王バアルの騎士団なのです、いわば戦闘のプロなんですよ!」
 若さゆえの怖い物知らずなのだろう、やる気満々と言った兄妹をたしなめるワルギリア。
 「ふむ?……とはいえ逃げるわけにもいかぬであろうお師匠様?」
 「しかしお嬢様、まともに戦って勝てる相手ではありますまい?」
 ロノウェの忠告は正しいとエターナルは思う、ベアト達も決して弱いわけではないしエターナルも戦闘特化型ではないが永きカケラ世界の放浪の過程で戦闘力も高くなっている。 それでもバアル軍の精鋭騎士団にどこまで対抗出来るかは未知数である。
 「案ずる事はないわ、二百程度ならすぐに方が付くであろう。 妾達の戦い方というものをバアルに見せてやれば良いわ! つうわけで任せるぞお師匠様!」
 「……はぁ? 私ですかっ!!?…………ま、まさか……!?」
 危機的状況なのはベアトも理解しているはずなのに不敵に笑って見せる、そんな彼女の考えが分からないエターナルは唖然としているしかなかった。


 
 指揮官でありながらこの作戦においては先陣を務めるアシュタロンがその地響きに気が付いたのは攻撃目標のベアトリーチェの庭園を目の前にした時だった。
 「……何だ?……!!!?」
 それは巨大な壁に見えた、その巨大な壁が地響きと共にアシュタロン達に迫って来るにしたがいそれが何かを理解し驚愕に目を見開いた。
 「……さ、ささささ鯖だとぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!!?」
 無限とも思えるほどの鯖で構成された波……いや、それはまさに津波であったそれはあっと言う間にアシュタロンとフロスト騎士団二百名を飲み込んでいった。
 「……こ、こんな馬鹿なぁぁああああああっっっ!!?」
 「我らバアル軍が……さ、鯖ごときにぃぃぃいいいいいいいいいいっっっ!!!!!」
 「ちょっ……何で私までぇぇぇえええええええええええっっっ!!!!?」
 何やら物陰に隠れていた蒼いツンテールの少女もついでに飲み込まれて逝く。
 その絶叫もやがては鯖の大波の中へと消えていく、その光景を上空から見下ろしながらワルギリアは笑う。
 「おっほっほっほっほ〜〜〜これが鯖の力なのですよバアル兵の皆さん?」
 有限の魔女ワルギリアの切り札にして究極のネタ魔法【鯖津波】は僅か数分で二百のバアル兵+蒼いツインテール少女を飲み込み戦闘を終了させたのだった。


 バアル軍の襲撃を退けたベアトリーチェの庭園には話を聞きつけた多くの知り合い達が駆けつけていた。
 「……ある程度予想はしていたのに初戦に間に合わなかったとは不覚だな」
 「そう言うなって十夜、バアルの動きが早すぎたんじゃ仕方ねえ」
 エターナ及びエターナルの兄貴分の十夜と宗二は真っ先に駆けつけ己の不覚をエターナルに詫びた。
 「フェリオンさんの主のバアルがお姉ちゃん(大)を狙ってたなんて……どうして教えてくれなかったんですか!?」
 「……ごめんねリム、でもこれはあたしが自分で何とかしなくちゃいけなかった事だから……」
 「そういう言い方はよせエターナル、神クラスの魔女のお前とて出来ることと出来ない事があるのは分かるはずだ、一人で何でもしょい込むことはない」
 「そうだな、少なくとも俺や十夜と刻夢さんは頼っていいんだぜ?」
 実の妹に血のつながらない二人の兄にそう言われシュンとなる、神クラスの魔女だと自惚れていたわけでも彼らを役立たずと思っていたわけでもない。
 よそのカケラからやって来た自分が原因の災いは自分でけりをつけなければならない、大事な家族や友達だからこそ巻き込めないと思ったのだ。
 「……しかし【鯖津波】かよ……こういう状況があんなネタ魔法一発で片付いていいのかよ?」
 「ここがそういうカケラと言ってしまえばそれまでだがな宗二、だがバアルが本気になればそうは通用しないだろうがな」
 十夜の言う事は正しいがそれでもベアト達ならとんでもなくハチャメチャな手段でどんな危機もひっくり返してしまうのではないかと思えてしまう、そしてそう思ってしまえば今までうじうじと悩んでいたのが馬鹿らしくなってしまう。
 「おりょ〜? 十夜に宗二にリムじゃん〜〜!」
 そこへ通りかかったのは【永遠の音金槌】を手にしたエターナだった、それを変に思った宗二がどうしたのかと聞いて見る。
 「ん? なんか頭にきたからバアルってやつをぶっ飛ばしてくる!」
 「……お、そうか……気をつけてな……って、ちょっと待てぇぇぇぇええええええええええっっっ!!!!」
 近所の悪ガキでもぶっとばしに行くような気軽な雰囲気に宗二だけでなく刻夢も十夜も一瞬スルーしかけたがすぐにその無謀な発言に驚き声を上げた。
 「ちょっ……それ無理だからお姉ちゃん!!!! いくらなんでも無理だからぁ〜〜〜〜!!!!」
 「そうだぞエターナ! バアルはお前の勝てる相手じゃないんだぞっ!!?」
 「諦めたらそこで試合終了って安西先生も言ってたし、やってみなければ分からん、νガンダムは伊達じゃないんだよってアムロ大尉も言ってたよ〜〜〜♪」
 「「意味分からんわぁぁぁああああああああああっっっ!!!!!」」
 「くっ、ベアトリーチェかっ!? またエターナに変なアニメを見せたなっ!!」
 宗二と刻夢の声がハモりここにいない犯人に見当がついた十夜が憤慨する、そんな様子を呆気にとられた顔で見ていたエターナルだがやがてクスクスと笑いだす。
 「あれこれ考える前に直感で動く、そうだよね、それが”あたし”……”エターナ”なんだよね……」
  


 バアル軍を退けた事は良いが今後の事を思うと素直に良かったとはリリーには思えなかった。
 「バアルは必ず報復をしてくるでしょう、いったいどうすると言うのです?」
 ワルギリアの私室でリリーはそう問いかけた、ワルギリアはしばらく窓の外を眺めていたがやがってゆっくりと口を開く。
 「さて、どうしたものでしょうね? しかしあの子はバアルとでも戦う気のようですよ?」
 「あの子?……ベアトリーチェが?……そんな無茶な!?」 
 エターナルこそ神クラスの魔女であるが他の者は一介の魔女や家具に過ぎない、そんな者達だけでバアルに挑むなど正気の沙汰ではない。
 「今回は運が良かっただけです! バアルがその気になれば何万という兵隊をここに差し向けるでしょう、そうなれば【鯖津波】でも防ぎきれませんよ!!」
 それが分からないワルギリアでもないだろうに彼女は何でもない事のように笑顔で言ってみせる、友人として長い付き合いのリリーだがワルギリアがいったい何を考えているのかまったく分からない。 
 「あの子達がそういう無茶をやってみせようと言うのならそれでいいのですよ、私はあの子達を、ベアトや戦人君を信じます」
 穏やかだが意思の固そうな声のワルギリアにリリーは何も言い返せなかった。


 「……理不尽に屈するのは趣味じゃないけど実際けっこう無謀よね?」
 そう言うエンジェに不安におびえている様子はないが「さて、どうしたものか?」とでも言いたげな顔をしている。
 「まともに戦えばではあるがな?」
 そう返すベアトとエンジェ、そして戦人は食堂でロノウェの用意した軽い食事を摂りながら作戦会議をしている。
 「そうだな、俺達が正々堂々とまともに戦ってやる義理はねえ……っても実際どういう手でいくかは問題だぜベアト?」
 一番単純で手っ取り早いのはバアル本人を倒してしまう事であるが戦人はもちろんエターナルでさえバアル本人勝てるかは微妙な所である、もっともそれ以前にバアルの本国へ侵入するのすらも容易ではないだろう。
 「ふむ? まあ、バアルにはエターナルに戦ってもらうしかあるまい……とは言っても後一人か二人は助っ人がいるであろうが……」
 「なら俺だな、バアルだって魔法を使うだろうし【エンドレスナイン】が邪魔になることはねえだろ?」
 「そう慌てるでないわ、人選は妾がこれから考えるし準備もある」
 「……何?」
 自分は確定だと思っていたからこのベアトの言葉には驚く、口ぶりからすると何か作戦があるように思える、そしてそう思ったのはエンジェも同じだったらしい。
 「……あんた、いったい何を企んでるのよ?」
 いぶかしげな顔でベアトを見やるエンジェに対し彼女は「ふふふふふふ」と不敵に笑ってみせた。
 「それはおいおい話すわ」
 言いつつパチンと指を鳴らしロノウェを呼び出すベアト。
 「お呼びでしょうか?」
 「うむ、大至急シェリーに連絡をとれ、そして【英霊召喚の儀式】の準備をせよ」
 「はいお嬢様」
 「……シェリーってリリーの弟子のシェリーだよな……【英霊召喚の儀式】……?」
 ベアトとロノウェの会話をいぶかしげに見ているしかない戦人とエンジェの兄妹だった。



 バアルにとってアシュタロンの敗北は予測の範囲内であったのはエターナルの存在であり、リリーら結社の援軍の可能性を考慮しての事だった、しかしまともに戦う事無く鯖に呑み込まれ敗北するなどと彼の常識では想像出来たものではなかったのだろう。
 「……【鯖津波】……そんなものに我が軍の兵が敗れたと言うのか……」
 「そういう非常識な事をやるんですよ、あそこの連中は」
 フェリオンも話しに聞くのみだが、庭園の者達はモビルスーツだのウルトラ怪獣だの、最近はモンスターハンターのモンスターまでどこからか召喚し日々ドタバタした生活をしているらしい。
 ちなみにアシュタロンは兄の死と今回の一件かなりのダメージを精神に受け当分立ち直れそうもなかった、鯖に負けたとあってはそれもやむなしだろう。
 「黄金の魔女ベアトリーチェとその仲間……得体の知れない連中だな、だが我が軍を討ち倒したとなれば捨てもおけんであろうな」
 「…………」
 いくぶんか警戒した様子だが諦めたというわけでもなさそうだった、中途半端にバアルを本気にさせた分状況は悪化してると言ってもいいかも知れない。
 (……この状況……刻夢、お前も戦うのか……?)



 「……まったく、バアル軍の様子を偵察して来いって言ったのにあんたって子は本当に役立たずね?」
 「お、お許しを……って、大放電来たぁぁぁああああああっっっ!!!? あぎょぇぇぇえええええええええええええええええええっっっ!!!!?」
 そして今日も今日で祭具殿に響くヱリカの悲鳴、本日のお仕置きは不甲斐ないヱリカを鍛え直すために、ハンターであったモガ村の村長を引退に追いやったラギアクルス亜種と素手でのタイマン勝負であったとさ。
 「ひぃぃぃいいっ、モ、モガ村のハンターさん……うみねこカフェモンハン部の皆さんでもいいですわ……どうか、ヘ…ヘルプミですわぁぁぁああああああっっっ!!!!」