この物語はうみねのこなく頃に本編とはまったく別のカケラ世界の物語です、独自解釈キャラやオリジナルキャラも登場します。
 

              ベアトリーチェの庭園物語 ベルフェの休日とたい焼きと大騒動編



 「……ふむ、暇だな」
 公園のベンチに腰掛けだらしなく呟くのは煉獄七姉妹の四女である怠惰のベルフェゴールだ、2月5日のベルフェの日ということで何故かエンジェとベアトリーチェから有給休暇を貰ったので魔界の町に繰り出したは良いが特にやりたいこともなく暇を持て余す事になっていたのである。
 「……しかしエンジェ様はともかくベアトリーチェ様が有給とはどういう風の吹きまわしなのだ?」
 本日何度目かになる疑問を口にする、ベアトは家具達を粗末に扱う事はないがこき使うという事はするし金持ちの割にケチなとこがあるので有給というのが意外と言えば意外だと感じている。
 「まあ、エンジェ様やワルギリア様にでも言いくるめられたのかも知れぬが……」
 そこでふと”怠惰”を司る自分が先程からいろいろと思考を巡らせることに気がつく、怠惰の悪魔も暇でやることがなければ何かしようとしてしまう事に苦笑するベルフェだった。
 「……おりょ? ベルフェ〜〜♪」
 「……ん? エターナ様ですか」
 ベルフェに声をかけたのはおよそ暇とは縁がなさそうなエターナだった、特に仕事や目的といったものがないにも関わらずいつもあっちへ行ったりこっちへ行ったりとせわしない日常を送っているようにベルフェには見えている。
 「こんなとこでどしたの?」
 「ベアトリーチェ様達にお休みをいただいたのですが特にする事もなく……暇を持て余してるしだいでして……」
 「ふ〜〜ん?……お友達とかの遊びに行かないの?」
 「……友人ですか、私には遊び仲間などはおりませんね……」
 それが家具と言うものであるのだが流石にそれを言うとピコハンで殴られそうなので言わないベルフェ、精神的に幼い事もあるのだろうがとにかく他者を差別しようとしないし立場だとかそういう事を意識しないのがこの小さな魔女なのだ。
 しかも我がままで自分が気にいならないと誰かれ構わずピコハンで殴るか魔法で金ダライを落とすかするので困ったものである。
 「……ちょっとベルフェ! あんた今変なこと考えてなかった!?」
 「……え?……あ、いや……そんな事は……あははははは……」
 顔に出ていたつもりはなかったのに感づかれたのには驚いたベルフェはそう言ってジト目で睨むエターナに笑ってごまかす。
 「……ま、いいや♪ それより暇ならあたしと遊びに行こう〜〜〜〜☆」
 「……はい?」


 まずい事になったと樹の上で隠れながら思っていたのは祭具殿オチの魔女こと古戸ヱリカ。
 「……突っ込みませんよ? もう突っ込みませんよ?」
 今日も今日とてベルンからベルフェの日をメチャクチャにしてこいという指令を受けベルフェを探してやっと見つけたら一人でいたので好都合と思った矢先にエターナである、超が付く程のノーコンでありながらネタキャラには神業的な命中精度の魔法を使うエターナはヱリカにとってまさに天敵である。
 「…………こいつぅぅううううううっ!」
 突っ込んだら負けと考えているのかギリギリと歯ぎしりしながらも必死でこらえるヱリカ。
 とにかく諦めて帰る事は出来ない以上後を付けチャンスを窺うしかない、いい加減汚名を挽回したいものであるというのが彼女の切なる願いである。
 「……って! 挽回じゃなくて返上ですわよ!! 汚名を挽回してどうするんですかっ!!!!……って、しまったぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!」
 つい突っ込んでしまった事に頭を抱えて叫んでしまう、その時グラッと視界が揺れ斜めになった。
 「……へ!?……あきゃぁぁああああっ!!?」
 ヱリカの乗っていた樹木が突然に倒れたためその上の彼女も当然地面に落下し叩きつけられた、しかも運の悪い事に頭から突っ込んだため首から上が地面に埋まると言ういわゆる【八ツ墓村状態】で気絶してしまう。
 「……○×△☆〜〜〜〜……」
 「……まったく、来るだろうとは思っていたが……いったい誰と戦っていたんだお前は?」
 「あ〜あ〜隠れてたんなら大声出しちゃダメだよね〜〜〜♪」
 ベルフェは呆れた顔で顔だけ地面に埋まったベルフェを見降ろしながらヱリカの乗っていいた樹の幹を斬り裂いた【ブレード】を消すのだった。


 エターナに連れられたベルフェがやって来たのはヒャッキヤ港という魔界の釣り人に少しは名の知れた漁港であった、そこではさらに意外な人物が待っていた。
 「……来たかエターナ…ん? お前はベルフェゴールか?」
 「……ウィラード・H・ライト卿……!?」
 アウトドア用の椅子に腰かけ釣竿を垂らしてたのはSSVDで魔女狩りのライトと恐れられた男だった、もっとも今はSSVDを引退し求職活動中とは聞いている。
 「ねえねえ、ベルフェの分の竿ってあるウィル?」
 「ん?……ああ、理御の奴も来る予定だったが急用が出来てな、あいつの分があるぜ」
 そう言って自分竿を地面置くと荷物から二人の分の釣竿を準備しだす。
 「……意外って顔だなベルフェゴール。 まあ、俺も別に釣りが趣味ってわけじゃなくてな、昔の同僚のアング・ラーサンペーって釣好きに付き合わされて覚えただけだがな、今は誘われるか気が向いたらしてる程度だ」
 唖然となっていたベルフェにウィルはそう説明する、魔女狩り集団と恐れられるSSVDとは言えそりゃ個人の趣味はいろいろだろうとはベルフェとて思うが、しかしイメージの問題である。
 「……っと、これでいいか、ほれエターナにベルフェゴール」
 「おっし〜〜〜! 釣りまくるわよ〜〜〜〜☆」
 ウィルから釣竿を受け取ったエターナは張りきった様子でちょこんと岸壁に座ると釣り糸を垂らした。
 「……ほれ?」
 「……え? ああ、はい……」
 ベルフェも半ば仕方なくと言う感じで釣りを始める。
 「……しかし……」
 今は楽しそうと言う風なエターナだがなにせ釣とは根気のいるものであるからすぐに飽きて投げだすのではないとベルフェは不安を覚えたがそれは杞憂だったとすぐに思う事になる。
 「……でね、あたしがお風呂に入っているのに宗二ったら堂々と入って来たんだよ!」
 「……まあ、大雨で宗二はびしょぬれだったんだろ? そりゃさっさと風呂で温まりたいだろうからきちんと確認しなかったんだろうがな……っと!」
 ウィルが竿を上げ釣り上げたカクサンデメキンをバケツに入れる、その間にもエターナは自分の事や他人から聞いた話を次々としていく、そのエターナのバケツはまだからっぽだが彼女はその事に気にした素振りも見せない。
 「こいつとは何度か釣りをしたがな、本当に退屈しねえよ。 あくせく生きてるわけじゃねえのに次から次へと何かを話し、行動してる……おかしな奴だ」
 「むかっ! おかしな奴って何よ〜〜〜〜〜!!!」
 時に人を怠惰にしようとするのがベルフェという悪魔だがエターナだけは怠惰に出来ないかもなとふと思った、誰だって苦労はしたくない楽をしたいとは思うがエターナの場合は楽をしたいと思うより先にとにかく楽しい事をしたい……と思うよりさらに先にとにかく行動してしまっているように見えるからだ。
 「……ふふふふふ」
 「……ん? どったのベルフェ?」
 「いえ、いつかあなたを怠惰にして差し上げましょうかと思いまして……」
 急に笑ったベルフェの言葉にエターナはキョトンとした。
 「……????……あたしは野球はしないと思うけど?」
 「「…………????」」
 今度はベルフェとウィルがキョトンとした顔になったがすぐにはっとなり二人で顔を見合わせた後に突っ込む。
 「「それは”代打”だ〜〜〜〜〜〜!!!!!」」
 「……?…あ、あたしの引いてる〜〜〜♪」
 ベルフェとウィルのダブル突っ込みを無視してエターナがリールを巻きながら竿を上げるとそこにはとんでもないものが付いていた。
 「……あ! タイ焼きが釣れた!……え? 毎日毎日鉄板の上で焼かれて嫌になっちゃったから店のおじさんとケンカして海に逃げだした?」
 「「泳げ!たいやきくんだとぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!?」」
 「たい焼き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 「……ちょっ! 何よあんた〜〜〜!!!?」
 そこへ謎の羽根リュックの少女が※マリアにそっくりな声で奇声を上げながら突進してきてエターナの手のたい焼きを奪おうとした。
 「うぐ〜〜〜〜〜たい焼き食べたい〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 「なっ! ちょっ……たべちゃダメよ、可哀そうでしょうが〜〜〜〜〜!!!!」
 「おい! エター……うおっ!?」
 「これは……おっと……まずいですよ!?」
 ついには羽根リュックの少女とエターナでたいやきくんをめぐってバトルまで勃発してしまう、エターナが【スターバスター】をはじめとする強力な攻撃魔法をとにかく連発し羽根リュックの少女を狙うがそのノーコンゆえベルフェ達はおろか無関係な他の釣り人へ向かって跳んでく始末である。
 「え〜〜〜!! 当ったれ〜〜〜〜!! 【スターバスター】! 【スターバスター】! 【エターナボム】!! こんのぉ〜〜〜〜【べタン】! 【カイザーフェニックス】! 【ドルオーラ】〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 「……ちょっとそれはベアトリーチェ様の読んでいた漫画の中の魔法!? なんで使えるんですかぁぁあああああっっっ!!!?」
 釣り人達が竿を捨てて逃げ惑う阿鼻叫喚の惨劇の場と化したヒャッキヤ港にベルフェの悲鳴のような叫び声が響く、だがまだ終わらなかった。
 「へへ〜〜んだぁ! そんなんに当る僕じゃないやい〜〜〜〜!!!!」
 ちなみに羽根リュックの少女は避けるどころかほとんどその場を動いていない。
 「むか〜〜〜!!!? だったら奥の手! 黄昏より暗き者、地の流れより赤き者……」
 「……それもベアトリーチェ様の読んでいた小説の……!!?」
 「おい! 何かやばいぞっ!!!?……やめろエターナっ!!!」
 エターナの小さな身体にとんでもない量の魔力が集中しだすの感じたウィルが叫び制止しようとするがすでに遅かった。
 「……汝の名において……めんどいから以下省略!! くらえ〜〜〜【ドラグスレイヴ】〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 「……そんな適当で!?……い、いやぁぁぁあああああああああっっっ!!!?」
 「うぉぉおおおおおおっ!!?」 
 詠唱と同時に轟音が響き巨大な光芒がヒャッキヤ港を包む、それにベルフェ達や無関係な釣り人たちもその悲鳴ごと呑み込まれていったのだった……。


 結局こんな大騒動になって散々な休日となったベルフェゴールだった。
 ちなみにこの大魔法でヒャッキヤ港は壊滅し瓦礫の山と化したものの奇跡的に死者はゼロで負傷者も何故か軽傷程度で済んだ、そして港の修理費の請求はエターナの妹の刻夢経由で結社のリリーに回された。
 そしてもちろんエターナはこのリリーだけでなく刻夢や兄貴分の十夜と宗二の四人から地獄の説教を受ける羽目になったそうな。
 そしてベルフェは……。

 「……エターナ様には少し……いや、かなり怠惰になって頂かないといつか世界が滅びるやもしれんぞ…いや、何としても怠惰にしくては!」

 怠惰の悪魔としてそんな使命に目覚めたとかいないとか……。
 そしてもちろんこれだけでは終わらない。


 ベルン邸には乞いこまれたそれを見てまたでっかいたい焼きだとフェザリーヌは呆れた。
 「……いったいこんな大きなたい焼きなど誰が食すのだ我が巫女1号よ?」
 「……1号とか言わないで頂戴アゥアゥ!……それにこれは別に食べるために焼いたわけじゃないわよぉ★」
 「ふむ?」
 祭具殿から運んで来たその巨大なたい焼きの中身はあんこなのか、それとも別の何か……具体的には某蒼いツインテール娘なのか、それは猫箱にしまったままの方が精神衛生上好ましいと思いたい焼きの中から聞こえる少女の助けを求めるような声は聞こえない事にしたフェザリーヌだった。




 ※この謎の羽根リュック少女のCVは堀江結衣さんである