※本SSは『六軒島オンライン』にてKENMがプレイヤーキャラとして使っているラディス=フラグベルトを主役にしたもので『シエスタ7914シリーズ』の外伝的位置付けとなります。


リーフィ=フラグベルト クラスD 上位
ディアシス大元帥の長女でラディスの妹の一人。フラグベルト一家の中では最も戦闘力が低いが頭の回転が速く参謀としての戦術、戦略面での作戦立案から医療技術、家事技能などの後方支援においては非常に高い才能を有している。通り名は『ディアシスのサードアイ』、『癒しの蒼葉』。
初対面の相手に「自分は兄の嫁」と堂々と言えるほど致命的なブラコンであり西方方面軍内では『残念な器量良し』との何とも微妙な評価を受けている…。




「ラディス=フラグベルトの戦闘記録」  【炎の災禍】編  その4(終)



ラディ「……これは…」

ルー「私達の出番は無かったみたい…だね」


ラディスとルーフィシスがアシュタロンが何者かと交戦していたと思しき場所へと辿り着いた時、既に戦いは終わり深手を負って気を失っているアシュタロンがその場に転がっているだけであった。

ルーフィシスの【サンダークラスター】によるダメージはかなりのものではあったのだろうが…それでもあのヴァサーゴと同レベルの実力者であるアシュタロンを破るとなれば相当の手練れだろう。


結局その周囲からは誰であったのかを特定出来る情報も無く、拘束したアシュタロンも当分の間は目覚めそうに無かった為、後に『炎の災禍事件』と呼ばれるヴァサーゴの反乱計画はここに終幕を迎えたのであった。



事件の子細の報告を聖王に終えて後、ラディスはようやく自分の城である西方方面軍の士官宿舎の自室へと戻り寛いでいた。
…とは言っても一人で…と言う訳では無く、共に戦ったルーフィシスに加えてもう一人の妹で長女のリーフィまでもが部屋に上がり込んで来ていて、そう広くは無い大学生の賃貸アパートで机の椅子やベッドに転がってゴロゴロしている三人…と言う状況に近い様相での寛ぎ(仮)であった。


ラディ「…納得いかん」

リィ「な〜に?まだあの事件の事で悩んでるの、ラディ兄さん」

ラディ「当たり前だ!結局アシュタロンを倒した奴については何一つ手掛かりも無かったし、このままじゃ謎だらけのまま終わっちまう!消化不良だ!」

リィ「はいはい、バンバン机を叩くのはいいですけど左腕は使わないで下さいね?」

ラディ「…分かってるって。握力もかなり落ちてるし、指先の反応はまだ悪いし痛ぇんだから無茶はしねぇよ…」


事件からは既に丸二日が経過していたが左腕の治りはいまいちだった。
定期的にズキズキと痛みが奔り、折角の年末の帰省であったがあまり休んだ気のしない時間が過ぎて行く状況となっていた。
しかし、そんな事よりもうやむやの内に終わりつつある事件の経過の方が気になって仕方が無かった。


ヴァサーゴは完全消滅。アシュタロンは回復しつつはあったが兄が討ち取られたショックからか自閉症状態に陥っていて交戦した相手が誰であったのかなどの情報を聞き出すにはまだ時間が掛かりそうな状況だ。
コルレル、ガブル、ブリトヴァ、ラスヴェード達幹部4名はルーフィシスの【サンダークラスター】によって全員が意識不明。
唯一、ベルティゴだけは重傷では有るが意識を取り戻し、現在は手当てを受けつつ事情聴取を受けていた。

…とは言っても、彼はアシュタロンとは追跡時には出会わなかった為、戦ったのが誰であったかの謎はそのまま残る形となった。


ラディ「他にあの戦場に居た人物で聞いてないと言えば……エリシア少将ぐらい、か」

リィ「エリシア少将が張ってた結界がどういうものかは兄さんも聞いているでしょ?得られる情報は無いと思うわ」

ラディ「そう…だよなぁ…」


ヴァサーゴに敗れて自らの完全密閉防御結界内で遣り過ごしていたエリシア=ルオーニフィス少将は先日の夜になってからようやく結界を解除して本国首都への帰還を果たしたそうだ。

聞いた話によると邪眼や魔眼によって視覚情報からでも結界内に害を成せる可能性がある敵への対策に始まり、大気の振動や精神攻撃など五感への作用全ての対策さえも織り込んでいたらしく潜んでいた結界内は光の届かぬ宇宙空間レベルな静寂の世界であったらしい。


リィ「自分の精神力の消耗を秤にかけて限界を迎える前を見計らって結界を解除するんだって。肝心なところがとんでもなく原始的よね…」

ラディ「可能な限り絶対な安全地帯を作り上げようとした結果の弱点だな。…だが、自分が耐えるだけでいいと言う条件としてならそう悪くは無いと思うよ」

ルー「うん、ルーもそう思う。居心地はもの凄く悪いだろうけど…多分ルーでもエリシアさんが自分から出て来るまでは一切手が出せない安全地帯になってたよ、きっと」

リィ「最前線で戦える二人ならではな意見って感じね。リィにはちょっと理解し難いわ」

ラディ「しかしまぁ…いつからその結界を作っていたのかは知らないけど…エリシアさん、引き籠りになりかかってないか?」


場の一同が微妙な空気で沈黙する。聖王は今回の任務でリボーンズにボロ負けして自信を無くしていたエリシアに自信を取り戻させる予定であった。
それが今度は一対多数だったとは言えヴァサーゴに敗北を喫した上に、そのヴァサーゴと殆どの幹部団を倒して反乱を鎮圧したのが評価こそ高いものの年齢上まだまだ若輩の小娘と見られがちだったルーフィシスである。


リィ「…エリシア少将のメンタルケアに留意してもらうようにお父さんに進言しておくわ…」

ラディ「だな。………それにしても……納得いかん」

ルー「お兄ちゃんそのセリフ二回目ー。マンネリは駄目だよ。あ、一部のセリフは例外だけど♪」

リィ「一部のセリフ?…ああ、ルーったら、兄さんに助けられた時に言われたセリフがそんなに嬉しかったのかしら?」

ルー「うん!…だってぇ、お兄ちゃんってば『てめぇ、俺の可愛い妹いじめてんじゃねぇぞコラァッ!!』なんて言ってくれるんだもん♪」

ラディ「んがー!咄嗟のセリフをいちいち覚えんなよ!忘れろ忘れろー!!」

ルー「やーだよ。もう日記の『お兄ちゃんの名言集』に書き加えてるんだから絶対忘れないよ♪」

ラディ「他にもどんな羞恥プレイなセリフが書かれてんのか気になるな畜生めぇ(涙)!!」

リィ「ふふん、甘いわねルー。私はあなたよりも年季の入った『名言集』以外に『迷言集』も作ってるんだから!」

ラディ「何でドヤ顔なんだよお前は!?お前等ホント天然いじめっ子だな!よくこんな妹二人を相手に引き籠りにならなかったと自分で自分を褒めたくなってきたわ!」

リィ「兄さんが引き籠り?!…そ、それは…もしそうなったら……うふ、うふ、うふふふふふふふ♪」

ルー「うわぁ…リィお姉ちゃんもの凄く怪しい顔して鼻血垂らしてるよ…」

ラディ「…色々とアウトだなぁ。兄から見ても確かに『残念』だ…」

ルー「あ、お兄ちゃんは『シスコンハーレム野郎』だったっけ?」

ラディ「知ってたのかよその噂!?…ってかお前もその原因の一人なんだから噂が立っているのに気付いているなら相応に距離をだなぁ…」

ルー「お兄ちゃんよりも良い人が現れるまではダーメ。そしてこの間でまたポイントを稼いだから当分は離れる予定はナーシ♪」

ラディ「……うぅ、今回の帰省は本格的に彼女を作らないと俺の受難が致命的なものになるとの警告になっちまったなぁ…」


『六軒島オンライン』での島での生活でも思い知りつつあったが「流石にこりゃヤベェ…」と目に見えて状況が悪化しつつある事を改めて再認識するラディス。
自分は『庭園物語』のあの男ほど鈍くはあるまい…。と傍で見ている分には思っていたがどうもそう大差ない状況なのだと軽く眩暈を覚えたが…気付いた分だけまだ何とかなるだろう。…と、残りの期間の活動を真剣に考えるのであった。


ラディ「……………納得いかん」

リィ「三度目は流石に即退場ですよ、兄さん」

ラディ「だってよぉ、何だかんだで会話が脱線して全然あの事件の話が進まねぇじゃねぇか」

ルー「進むも何も手掛かり無し何でしょ?だったらもう直接戦ったアシュタロンの回復を待つしかないんじゃない?」

ラディ「…そりゃあまぁ…そうなんだが…」

リィ「……しょうがないわねぇ。じゃあ少しだけ教えてあげようかしら」

ラディ「え?リィは何か知っているのか?」

リィ「ふふん♪私がお父さんの作戦立案のお手伝いが出来るほどの切れ者だって事、忘れてた?」

ラディ「違う意味でのキレ者だって事は忘れてないけ…ひでぶっ!?」

ルー「お兄ちゃん、話がまた脱線するから余計な事は言わないの」


ついいつもの余計な一言が出て右脇腹に【サンダーディザスター・イオス】の鞘が深々と抉り込まれる。
鞘の先がかなりヤバい深さまで抉り込まれた上にぐりぐりされて「く」の字のポーズになって悶える俺だがリィの話は何事も無い様に続く。


リィ「つまり、現場には何もなくとも巻かれていた包帯って手掛かりはあったのよ。その包帯の繊維とかの出所から調べるって手があったの」

ルー「んふふ〜♪そ〜れ♪そ〜れ♪」

ラディ「あががががががッ!!」


楽しそうに鞘をグリグリして何時の間にか俺を弄って遊ぶ事に夢中になっているルーフィシスとマジで臓器の一つや二つがエラい事になるんじゃないかと悶えが悲鳴に変わってきている俺であったがリィ先生の解説は変哲も無く続く。


リィ「包帯の繊維はこの辺りで市販されている包帯とは似ても似つかない物でかなり特注製の高級品である事が分かったわ。聖王軍内の科捜研のサンプルの中で最も近いと思しき結果が出たのは……って聞いてます?」


流石に俺が床に転がって痙攣し始めた事で中断されるリィ先生の解説。
床に転がる俺を犯人(ルー)は何食わぬ顔でよしよしと頭を撫でてきているがツッコむ気力も無い。
…と言うか、こんなになるまで大人しく弄られている辺り、俺にも問題があるのだろう…(苦笑)




ラディ「…それで、サンプルの中で最も近かったのは何処の物だったんだ?」


30分ほどの中断を挟んでようやく復活した俺はようやく話を再開させる。


リィ「はいはい。タイミング的にはこのまま引いちゃおうかとも思ったけど、ちゃんと言うわよ。この包帯は地獄では手に入らない天界製ね。それも荒事の多い戦闘職に支給される支給品が最も近かったわ」

ラディ「天界製?それはまた随分と予想外な…」

ルー「天界と地獄との協定関係から考えるなら……通りすがりのスパイ…とかかなぁ?」

ラディ「いや、それはねぇな。確かに地獄のそんなところをうろついてる時点で普通の観光客などとは言えないだろうが…アシュタロンと交戦する理由がねぇ。…あと、俺を手当てする理由もな」

リィ「やっぱり情報分析とかはルーちゃんはまだ苦手ねぇ。あのアシュタロンを倒すほどの実力者がスパイなんてこそこそと地域に潜むなんて真似は出来ないわよ。それに、身元がバレる様な支給品の包帯なんてあからさまな物は持ち歩かないわ」

ルー「…うー。お兄ちゃんもお姉ちゃんも意地悪なんだから」

ラディ「痛てててててててて!そこで何故俺の右脇腹を抓る!?今度悶絶して話を打ち切ったら流石にリテイクが利かんぞオイ!」

リィ「打ち切ってもいいんじゃない?今のところはこれ以上絞り込める情報はまだ分かって無いんだし」

ラディ「え?仕切り直しといてそんだけで終わり?」

リィ「うん、そんだけ。さぁルーちゃん、お疲れな兄さんを一思いに休ませてあげてね☆」

ルー「はーい♪お兄ちゃん、チョークスリーパー行っくよ〜♪」

ラディ「おぎゃ!?(ガク)」


思いっきりヤバい血管を締められた事でツッコミスキルを使う間もなく限界を迎えて意識を途切れさせるラディス。
連休テンションでハイになっている妹二人の前でそれは極めて危険な事だったが『限界を迎える』とは抗えぬ状況に追い込まれたからこそである。
意識を失った彼に両手にフリフリのドレスを手に息を荒げた足音が近付いていても気付かなかったのは無理も無い話であった。

……と「その2」の締めに使った地の文を敢えて踏襲する事で彼がこの後どの様な悪夢見る事になったのかは想像に難くは無いだろう…。(合掌)



結局、シリアスな展開を踏まえつつも最初から最後まで「全話に出番が少しでもあった」と言う事で辛うじて面目を保つと言う「主人公(笑)」の扱いのまま『【炎の災禍】編』は閉幕となるのであった。




「ラディス=フラグベルトの戦闘記録」  【炎の災禍】編  







【各種補足】

>ルー「天界と地獄との協定関係から考えるなら……通りすがりのスパイ…とかかなぁ?」

基本的にKENMの世界観では天界と地獄は神々の時代からの長年の死闘の末に近代になってお互いの領土を不可侵とする協定が結ばれている状況を想定しています。
とは言っても互いの権勢を維持する上でお互いの領土に間者を放ち合う情報戦については今なお盛んであると言う世情をルーフィシスのセリフに込めてます。


Q 結局ラディスを手当てしたのやアシュタロンと戦った人物って誰だったの?

A リィ「……今の所は一応調査中よ。…まぁ、二人には伝えていない情報で既に私個人としては誰であったのかは確信を持っていますけど…今はまだ明かす気は無いわ」