※本SSは『六軒島オンライン』にてKENMがプレイヤーキャラとして使っているラディス=フラグベルトを主役にしたもので『シエスタ7914シリーズ』の外伝的位置付けとなります。


ルーフィシス=フラグベルト クラスA 上位 (特定条件下では クラスS 下位)
ディアシス大元帥の次女でラディスの妹の一人。戦闘能力が早熟した事によりまだ少女と呼べる幼さながら元帥レベルの実力を備えている。雷の属性を持つプトレマイオス製の傑作魔剣【サンダーディザスター・イオス】を下賜され見事に使いこなし『凶雷のルーフィシス』、『建御雷の黒巫女』、『雷の災禍』といった通り名で呼ばれ旧バアル軍時代から軍内や周辺諸国から一目置かれる存在となっている。しかし、その幼さからのディアシスの配慮により佐官クラスの待遇と権限を与えられつつも正式な任官は成されていない。
戦闘時には達観した思考や戦闘者としての冷酷な顔も出来るが基本的な性格は歳相応の女の子で可愛い物好き。…しかし、残念な事に姉ほどではないがかなり重度のブラコンでもある(汗)



「ラディス=フラグベルトの戦闘記録」  【炎の災禍】編  その3 前編



ヴァサ「…その障壁魔法…破れそうか、アシュタロン?」

アシュ「……悔しいけど、無理だね兄さん。本国首都の外壁に用いられた循環式よりも更に高出力で複雑な式が何重にも編み込まれて作られているみたいだ。何年掛かって作り上げたのかは分からないけど…流石は『結界姫』だ」

ヴァサ「避難用のシェルター…か。延々とは閉じこもって居られないだろうが逆を言えば数日ならば絶対安全というわけか…」


足元に転がった直径1mほどの大きな卵状の繭を忌々しげに睨みつけるヴァサーゴとアシュタロン。
不透明なのでその中の様子を外から見る事は出来ないが、中には深手を負ったエリシアが座り込む様にして入っているのだ。

多数の敵に包囲されて窮地に追い込まれたエリシアだったがそのまま倒される様では元帥の地位まで得た者としてはあまりにお粗末な話だ。
その様な致命的な危機に際しても生き残る為の秘策を用意しておいてこそ、真の意味での指揮官と言うものなのだろう。

ヴァサーゴはエリシアの繭の護りを破るのは現状では無理と判断して一端その繭を人目に触れぬ様に可能な限り深く地中に埋めてからアシュタロンにも逃げたもう一人の追撃を命じる。
強力な限定結界だが同時に外界との情報遮断も完璧らしく直ちに援軍を呼ばれる心配は無いと分かったからだ。繭の持続時間が切れる頃を見計らってから掘り起こして討ち取ればそれでエリシアへの対処は充分との判断だ。

…ならば、問題はもう一人の逃げた男の方だ。


反乱を企てていたヴァサーゴにとってこの魔剣の受け渡し場所でのエンカウントは正直に言えば想定外であった。
受け取った魔剣はあくまでも自身のレベルアップによってこれから行う周辺諸国との外交をより効率よく、かつ優位に進める為のカードの一つだった。

ヴァサーゴは『武』のみでなく『知』にもまた優れた男である。
いくら大王の交代による領主や住民との摩擦や混乱が頻発し、安定するにはまだ時間を要する国内状況とは言え自分達だけでこの大国を覆せる等と奢ってはいなかった。

特殊戦技隊解散後の数か月を使って密かに元部下たちの移動先を調べ上げて連絡を取り、周辺諸国の中で自分達の行動に同調して動けそうな諸侯を選定して接触を図り、強力な後ろ盾となるスポンサーの確保による資金、資源の調達や本拠地として制圧する拠点の選定と攻略の為の情報集め、場合によっては周辺諸国への亡命ルートの用意等々反乱計画に必要な多様な行動を彼は実弟のアシュタロンとともに恐ろしいまでの速さで進行させていた。

元特殊戦技隊の幹部団だけをこの地に集めていたのも各地に散っている戦技隊隊員を如何に効率よくまとめ挙げて計画に運用するかを話し合う為だ。

その点ではラディスはこと索敵要員としては非常に優秀であった。
彼はこれがヴァサーゴと特殊戦技隊の『反乱』だと察していたが、その進捗状況については見誤っていた。
ヴァサーゴの反乱計画は周到な根回しを終えてからの実行段階への移行としてはまだまだ『初動』であり、ラディスのこの発見は正に挙兵準備に入る寸前でその首根っこを抑えた状況だったのだ。

どれだけの者が加担しているのかを知る意味でも証拠能力としても最高のタイミングだ。
だからこそ、その追撃もたかが一人にアシュタロンを含む幹部団総掛かりでの抹殺を…となっているのも無理も無い状況であった。


ヴァサ「…さて、向こうの始末が終わるまでにこちらも……ッ!?」


絶対の信頼を置けるアシュタロンを追撃に加えさせた事でようやく一息つけると思っていたヴァサーゴだったが、その背後に一瞬にして現れた存在に気付き振り向きざま戦闘態勢をとる。

外見は年端も行かぬ少女であったがその身に纏う闘気が尋常ではない。
薄く光沢をもつ蒼い髪をポニーテールにまとめ、胸部に金の縁取りが施されたプレートメイルに金糸で組まれた組紐で身に付けられたバリアコート。
金色の細工は国内の軍では士官にのみに使用を許されているのでそれだけで階級を示す物足り得るのだが…それでも身に着けて然るべきである肝心の階級章をその少女は身に着けてはいなかった。
それでもヴァサーゴはその少女が何者であるかを理解した。
少女がその腰に携えた剣。柄に青白く輝く宝玉が付いたその魔剣は自らが構え持つ魔剣と共鳴反応を起こしていたのだ。
【フレイムディザスター・イオス】とこの様な反応を起こす魔剣の担い手で蒼い髪の少女と言えば旧バアル軍時代から軍籍を置く者の間で知らぬ者はまず居ない。

知勇兼備の名将、ディアシス=フラグベルトの秘密兵器と呼ばれた彼の次女


ヴァサ「…お前は…ルーフィシス=フラグベルト…だな?」

ルー「…はい。それはそうと…ヴァサーゴ様、その魔剣…一体どういう事ですか?」

ヴァサ「……魔剣?あー、こいつの事か」


殺気立ってはいたがその質問を投げ掛けてきた事でヴァサーゴはルーフィシスがまだ状況を完全には把握してはいない事を察して構えを解く。
相手がまだこちらを完全に敵と認識していないならばひとまずは誤魔化しておいた方が奇襲を仕掛ける隙を窺えるだろうとの読みだ。


ヴァサ「ラスヴェードの奴がこの剣を盗み出したって聞いてな、元上司としてお灸を据えてやろうって事で取り返してやったんだよ」

ルー「……嘘、ですね。その魔剣は既に貴方によって幾度となく振るわれています。そうでなければ担い手を選ぶ傑作魔剣が………クッ!!」


構えを解いていた状態から一瞬にして振り抜かれたヴァサーゴの剣閃がルーフィシスの首を落としに襲い掛かったが同様の速さで伏せてその一撃を空振りに終わらせつつ間合いを取るルーフィシス。
ヴァサーゴの嘘を看破したルーフィシスに対して誤魔化せないと悟るや否や躊躇なく仕掛ける事で奇襲をして見せたヴァサーゴも見事だがそれを躱しつつ間合いを取って二の太刀に入らせなかったルーフィシスも流石だ。


ヴァサ「ハッ!ハァッハハハッ!!こいつはいい!こうなっちまったら戦うしかねぇよなぁ!?『結界姫』の次は『凶雷のルーフィシス』が相手とはッ!不足はねぇぜッ!!」

ルー「ッ!『結界姫』…エリシア様と戦った!?それじゃあ…」

ヴァサ「クク、ラスヴェードとはグルだった、って事だな。因みにそのお姫さんは嬢ちゃんの足元数十メートル辺りに埋まってるぜぇ!」

ルー「エリシア様が敗れた……じゃあ……ヴァサーゴ!ラディスお兄ちゃんは!…お兄ちゃんは何処ッ!?」

ヴァサ「あん?ラディスお兄ちゃんだぁ?そんな奴は知らね…いや、尻尾を巻いて早々に逃げたあの野郎の事か?」

ルー「逃げた?…良かった、なら無事って事ね…」

ヴァサ「無事?ハッハッハッ!そーでもねぇぜぇ!コルレルの奴が左腕を斬り飛ばしたのは俺も確認したし他の幹部にも追撃を命じてある。今頃もう死んでんじゃねぇか?」

ルー「ッ!!お兄ちゃんへの追撃を止めさせて今すぐ降伏するか…それとも今此処で死ぬか選びなさいヴァサーゴォッ!!」


自らの剣に魔力を集束させつつ抜刀術の構えをとるルーフィシス。
刀身に漲らせた雷撃が鞘に収まり切らずに放電され周囲の大気を輝かせる。


挿絵 「戦闘態勢の『凶雷』」(先頭にh必要)
ttp://yui.at/bbs1/sr3_bbss/15616jyunari/9_1.jpg


ヴァサ「おおぅ、怖ぇ怖ぇ。年端も行かねぇ小娘とは思えねぇ凄まじい殺気だなぁ。この戦い、楽しめそうだッ!!」


ルーフィシスの通告をヴァサーゴが余裕で受け流したそれはこの場において一切の降伏の意思が無い事を意味していた。

弾かれる様に間合いを詰めて居合を一閃させるルーフィシス。
居合の一閃の軌跡に合わせて迎撃の一斬を放つヴァサーゴ。



ルー「雷光一閃ッ!!」

ヴァサ「轟炎一閃ッ!!」


互いの斬撃が交錯すると共に大気と大地に炎と雷が迸り周囲を破壊の渦の暴風域へと様変わらせる。
ルーフィシスの傑作魔剣、【サンダーディザスター・イオス】。
ヴァサーゴの傑作魔剣、【フレイムディザスター・イオス】。

雷と炎の災禍の名を与えられたその魔剣同士の激突はその名の通りに周辺地域を際限無き稲妻の乱撃と燃え盛る炎の地獄へと突き落としながら唯ひたすらに打ち合い続ける。


ルー「……くっ!」

ヴァサ「オラどうしたぁ!手数が遅れてきてるぜぇ!」


一際大きく振り抜かれた横薙ぎの一撃によって大きく弾き飛ばされるルーフィシス。
体格の差はあってもそれをものともせずに元帥に匹敵するとまで言われる実力を有していたルーフィシスであったがそれはあくまで『匹敵』である。
魔剣によってその元帥の一角、車騎元帥エリシアをも上回るまでの力を得た今のヴァサーゴが相手では不利に追い込まれるのも無理も無かった。

…何より焦りもある。


ルー「…はぁ、…はぁ…はぁ……急がないと……お兄ちゃんが…」

ヴァサ「ふん、自分も危ねぇってのにまだ兄の心配とは舐めてくれるじゃねぇかよ。そんなに決着を急ぎてぇなら…速攻でテメェの死で終わらせてやるよ!【メガ・ソニック】ッ!」

ルー「ッ!【サンダースマッシャー】ッ!!」


魔剣に集束させた魔力を一気に撃ち放つ大技で一気に仕留めにかかったヴァサーゴの一撃を迎撃魔法で辛うじて雷撃魔砲弾で防ぐルーフィシス。
手傷を負いながらもまだまだ戦闘可能な状態を維持してみせるルーフィシスにヴァサーゴは舌打ちする。

この小娘…やはり強い。
咄嗟の迎撃にも関わらず【メガ・ソニック】の威力が拡散する要所を的確に衝いて最小の威力で最大の効果を上げる迎撃をして凌いで見せた。


ヴァサ「…いいねぇ。やっぱり戦いってのはこうでなくちゃいけねぇな」

ルー「…………わ」

ヴァサ「あん?」

ルー「こうなったら奥の手を使うわ!命の保証は無いわよッ!!」

ヴァサ「ッ!?これは…?!!」


ゾクリとした強烈な悪寒に襲われるヴァサーゴ。
周囲の大気が大きく鳴動し、上空は急激な勢いで雷雲に覆われはじめ、一分と掛からずに夜の帳が下りたと思わせるまで辺りは暗くなっていた。


ルー「はあああああああああぁぁぁッッ!!」


気合いの一声と共に【サンダーディザスター・イオス】を逆手に構えてから大地に深々と突き立てるルーフィシス。


ルー「【震電】ッ!!」


突き立てられた剣の刀身から無数の電光が大地を迸る。
10や20mなどでは無く見渡す限り…いや、それこそ雷雲が覆い隠す周囲数キロ以上と言っていい広範囲に渡ってである。


ルー「…ワン……ツー……フォー…………シックス…………」

ヴァサ「痛ッ。この電光…足に絡みつく…?………まさか、『マルチロック』なのかッ!!?」

ルー「セブンッ!索敵範囲内の敵、オールロック完了!セカンドフェイズ!【地雷震】ッ!!」

ヴァサ「グッ、ガァッ!?電光が…全身に!?」

ルー「全ターゲット…バインド完了ッ!!」


大地に突き立てていた魔剣を準手で引き抜きそのまま高々と振り上げて天を仰ぐルーフィシス。
周囲一帯の複数の目標を同時に見つけ出して同時に拘束する。
彼女の通り名を思えば次に何が来るのかは明白。


ヴァサ「いかんッ!!全力で逃げろぉアシュタロンッッ!!」


この場に居ないヴァサーゴ以外は今の状況が全く理解出来ていまい。
唯一瞬時に危機的状況を伝達出来る実弟へと必死で呼び掛けるヴァサーゴ。
ルーフィシスの奥の手は正にその直後に発動した。


ルー「【サンダークラスター】ッッ!!!!」


雷は天の怒りだとよく神話では語られるがこの雷は正にそういった類のものだろう。
半径10キロほどの地域に同時に降り注いだ天と地を繋ぐ雷と言う名の巨大な光の御柱はその全てが過たずにロックオンされた七名へと轟音と共に直撃した。



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