ラディス=フラグベルトの戦闘記録 【炎の災禍】編 その3 後編



ヴァサ「…………ガ……ハ……ハァ……何とか…防げたか…」

ルー「…ッ。しぶとい。…いえ、流石と言った方が正解みたいね…」


少なからぬ火傷と電撃によるダメージを負いつつも五体満足でルーフィシスに向き合うヴァサーゴ。
その右手には黒く焼け焦げて融解した元は剣だったと思しき鉄の棒が大地に突き立てられていた。
それは従来のヴァサーゴの愛剣であった【チェスト・ブレイク】の成れの果てである。
ルーフィシスの魔法力によって召喚、構成された雷撃である為に従来通りの物理法則に全てが則る訳では無いが、それでもその特性の概念としての防御方法は相応の効果を有している。
魔剣をアースにして可能な限り雷撃のダメージを受け流したのだ。



ヴァサ「…ハァ、ハァ…【チェスト・ブレイク】のキャパじゃあ…この程度の減殺で限界…か。……ハァ…『凶雷』…ってのは…伊達じゃねぇ…なぁ……ハァ……他の連中も…アシュタロン以外は全員やられたらしい…な…特殊戦技隊の…幹部団も…形無し…だぜ…」

ルー「それでも…隊長格の二人は残った。アシュタロンがまだ居るのなら…お兄ちゃんの安全はまだ確保出来たとは、言えないわ。私も追撃に………ッ?!」

ヴァサ「…ハァ………ハァ……フゥッ。さぁ、反撃開始…てね。クック……ククク!」

ルー「グッ……う、嘘!これは!?あ、熱い…きゃあぁッ!!」

「…セカンドフェイズ、【蛇炎震】。悪いなぁ嬢ちゃん、マルチロックを省いて…一気にバインドから入らせてもらったぜぇ、ククク!アーッハッハッハ!!」


先程のルーフィシスの高電圧の電光の帯によるバインドとは打って変わって炎の蛇が全身に巻き付く事で同様のバインドを成立させるヴァサーゴ。

ルーフィシスはヴァサーゴの才能と資質を甘く見ていた。
【サンダーディザスター・イオス】の兄弟剣である【フレイムディザスター・イオス】。非常に優秀な魔剣だがそれ故に使いこなすには少なからぬ時間がかかるだろうと踏んでいたのだったが…まさか自分の使い方を一度見ただけで真似て使って見せるまでヴァサーゴとの相性が良かったとは思いもよらなかったのだ。

相手が難攻不落な戦術を用いた際には同様の戦術を模倣してぶつける事で相手のその戦術への対応方法を見る事で有効な迎撃方法を知ると言う手法は広く知られたものだが…今のヴァサーゴは正にそれである。

ル―フィシスの剣の力の引き出し方を真似て急激に【フレイムディザスター・イオス】の力を制御し使いこなし始めていたのだ。


ルー「グ…う…うっ…あぁ…熱い…腕が…足が…焼ける…う…ああああああああぁッ!!」


同種の技と言う意味ではこの炎のバインドへの対応策をルーフィシスは決して知らぬ訳では無かったが……それを行うには余りにも消耗が激し過ぎていた。

【サンダークラスター】はルーフィシスの最大の奥の手の一つだ。
それを使ってまだ真っ向からの激しい交戦が続くケースは若い彼女の今までの戦闘経験においてはほぼ皆無と言っていい。

ジリジリと炎の蛇が四肢を焼き焦がし続ける中、ルーフィシスはその痛みに耐えつつヴァサーゴを睨み続ける。

自分の真似をしてくるならば…いや、自分と同様にまでその魔剣を使いこなしているのならば次に来る一撃は【サンダークラスター】をも上回る最悪の一撃だ。

マルチロックからバインドに繋げて回避不能にしてからの雷撃による複数同時撃破。
当然それは『一対多数』においての奥の手であることを意味している。

つまり、『一対一』においての奥の手は別に存在するのだ!


ヴァサ「これで終わりだ!【クライシス・レッド】ッ!!」

ルー「う、ああああああああああああぁッ!!」


赤き炎の御柱…いや、赤き炎の磔刑場がルーフィシスを磔にしてこの世に姿を現す。
その身に残る全魔力と【サンダーディザスター・イオス】の守護の力の全てを共に限界まで引き出して発現した磔刑上の炎の超火力に対抗するルーフィシス。

太陽の表面をも上回るかという桁外れの灼熱地獄を何とか数百度のサウナレベルまで抑え込んではいたが…当然何時までも耐えられる様な状況では無い。

あと何秒持つか…。

そんな瀬戸際まで追い込まれたルーフィシスだったがその眼はまだ諦めてはいなかった。


ヴァサ「ッ?!なにィ?!!」


何故なら、彼女には自分がピンチの時には必ず来てくれると信じられる存在があったからだ。


???「てめぇ、俺の可愛い妹いじめてんじゃねぇぞコラァッ!!」

ヴァサ「ク、【クライシス・レッド】の炎が消えた…だとォ!!?貴様ァ!一体何をした!?」


突如として乱入したラディスが何かしらの力を発動したかと思うと瞬時に炎の磔刑場は跡形もなく消え去りルーフィシスを解放する。

大した力も無い筈のラディスによって自身の最大の大技が破られ動揺するヴァサーゴ。


ルー「ありがとう、お兄ちゃん!!ハァッ!!」


解放されると同時に動揺したヴァサーゴのその一瞬の隙を衝いて一気に間合いを詰めてその眼前にまで迫るルーフィシス。


ヴァサ「な?!馬鹿な!何故動ける??!」


決して浅からぬ火傷を負い全身の体力も魔力も根こそぎ消耗していたはずのルーフィシスであったがヴァサーゴの眼前に現れたその姿は傷一つなく体力も魔力もその全てが完全回復していた。
秘薬、霊薬の使用の形跡は一切なかった。
…ならば、これもまた現れたあの男が『何か』をした事による効果だろう。
ヴァサーゴは自分の優位を一転して覆して追い込んだその男…ラディスを呪い殺さんばかりの眼光を持って睨みつける。
眼前で必殺の攻撃態勢のルーフィシスへの対応など二の次だ。
…いや、今更回避も防御も間に合わない完全な『詰み』が確定した状況下である以上、ヴァサーゴの取れる行動と言えば自身の敗北を決定付けた存在を全霊を持って呪う事、唯それだけだったのだ。


ルー「眩き雷光の中で果てよ!【クライシス・ライト】ッッ!!」


今度はルーフィシスの雷光の磔刑場がヴァサーゴを磔にして捕える。
桁外れな高圧高電流のそれは超火力による『標的の焼失』を引き起こす炎の磔刑場のそれと効果の上では同質だ。
迎撃を諦めたヴァサーゴが5秒と原型を保てるはずもなく、瞬時に跡形もなく消え失せたのは物の道理である。


ルー「…や…った…」

ラディ「…へへ、流石だなぁルー。特殊戦技隊のヴァサーゴを倒すなんて…兄として鼻が高いぜ」

ルー「…ううん、そんな事ない。勝てたのはお兄ちゃんのフォローがあったからだよ。…そんなにボロボロな状態なのに駈け付けてくれて…本当に…ありがとう」

ラディ「気にするなよ。この怪我は俺が弱っちかったから受けただけの話だ…痛ッ…少し開いたか…」


ヴァサーゴとの交戦中は気にする間も無かったがラディスは未だ充分に『重傷』と呼べるだけの負傷状態だった。
服の上から巻かれた包帯は複数回に渡ってきつく厳重に巻かれていたがそれでも血が滲み出していてかなりの深手であることが見て取れるほどだ。しかも左腕は付け根の部分から服の袖が切れていて出血痕も腕そのものが紅く彩られるまでに至っている。


ルー「大丈夫?それに…来てくれるとは信じてたけど…アシュタロンの追撃からはどうやって逃れたの?」

ラディ「…正直言えば…俺にもよく分からねぇんだ。さっきの瞬間移動レベルの強襲とヴァサーゴの魔法キャンセル、それとルーの完全回復は『六軒島オンライン』で得た願いを叶える一助となる特殊な魔法ポイントを使ってどうにかなったんだが…この怪我の包帯は俺が意識を取り戻したら巻かれていたんだ。それと…お前の雷撃で弱ったであろうアシュタロンは俺の前には現れなかったよ。誰かと交戦している気配はあったが生憎とお前の身の危険を直感した方を優先したから誰と戦っていたかは確認している余裕はなかったんだ」

ルー「そう…なんだ。…えへへへへ〜♪」


自分の置かれた状況の把握すらも二の次にして自分を助ける為に貴重な魔法ポイントを使って助けに来た兄の行動にこれ以上ないほど頬を緩ませて笑顔になるルーフィシス。
そんな妹の感情の機微を察して頭をしっかりと撫でてやるラディス。

…巻かれた包帯が誰によるものだったのか、アシュタロンと戦っていたのか誰だったのか等、いくつもの事が気になりはしたが、今はまずこの勝利を喜んでおくべきだと判断しつつ、ヴァサーゴが落とした魔剣【フレイムディザスター・イオス】を回収する。


これで魔剣の奪還には成功し、残った敵はアシュタロン唯一人。
暫しの休息の後、ラディスとルーフィシスは今回の戦いの最後の仕上げとしてアシュタロンの撃破へと乗り出すのであった。




続く


ラディスは当戦闘にて六軒島オンラインで使うべき『魔法ポイント』を3P消費しました。


【各種補足】

魔法ポイント
『六軒島オンライン』で依頼を受領、または成功する事で入手出来る特別な魔法力。主催者の野辺亜子氏曰く「願いが叶っちゃうかもしれない」と言う特殊な概念を付加されている力で、ある程度の無茶な現実情報の改竄をも可能としている。


【サンダーディザスター・イオス】
『雷の災禍』と銘打たれたイオリア・プトレマイオス作の傑作魔剣の一振り。属性付加を重視されたイオリア作の魔剣の中では最高位の出来であり【黒狼の帝】と同様に意思を持ち担い手を選ぶ。刀身は小太刀より一回り長い程度の長さでスピード重視。刃は小烏丸型に造られていて切っ先から三分の二ほどは両刃で残りは片刃となっていて柄に薄く輝く蒼い魔法石が嵌め込まれている。

【フレイムディザスター・イオス】
『炎の災禍』と銘打たれたイオリア・プトレマイオス作の傑作魔剣の一振り。属性付加を重視されたイオリア作の魔剣の中では最高位の出来であり【黒狼の帝】と同様に意思を持ち担い手を選ぶ。刀身は太刀程度の長さで使い勝手重視。刃は基本的な日本刀型だが刀身の中央に赤く輝く魔法石が直線状に嵌め込まれている。

【チェスト・ブレイク】
【フレイムディザスター・イオス】を手に入れる前までのヴァサーゴの愛剣。彼の専用と言う意味でも十分に強力な部類に入る魔剣で『庭園物語』ではこの剣を手にエターナルと互角の戦いを演じるほどだった。



『使用魔法基本イメージ』 

ルーフィシス
雷撃付与式剣技【雷光一閃】…剣に電撃を付与して放つ居合。付与した力をその一斬で消費するが威力は高い。

雷撃魔砲【サンダースマッシャー】…放つ腕全体に雷撃の魔力を集束させてから高威力雷撃魔法弾を撃ち出す。使用者の腕前によって集束率の調整が可能であり貫通力を任意に変更する事も出来る。

電光探針魔法【震電】…任意の範囲一帯を数秒〜数十秒以内で電光が駆け巡り索敵、ロックオンを行う。※ロック条件も任意で調整可能

雷光拘束帯魔法【地雷震】…【震電】のロックオンによって繋がった電光の力を引き上げて相手の動きを拘束する。※拘束力も任意で調節可能&視認範囲であれば直接相手を拘束する事にも使用可能。

均等雷房炸裂魔法【サンダークラスター】…極大の雷をロックオンした人数分で均等に振り分けて同時に落とす。※【震電】、【地雷震】を用いている場合はその雷光に引き寄せられる形で落雷する為、回避は非常に困難となる。

雷滅殺魔法【クライシス・ライト】…極大の雷を単体に向かって十字架状に落として磔にする様に括りつけて大ダメージを負わせる。※使用者のレベルにもよるが基本的に最高位に属する魔法で桁外れの威力となる為、磔けられれば瞬時に燃え尽きるか黒コゲになるのが一般的。


ヴァサーゴ
炎撃付与式剣技【轟炎一閃】…剣に炎撃を付与して放つ居合。付与した力をその一斬で消費するが威力は高い。

【メガ・ソニック】…剣に魔力を集束させて放つ斬撃式攻撃魔法。剣が変わった事でこの魔法だけは相性の差から威力が少々減衰していたようだ…。

炎蛇拘束帯魔法【蛇炎震】…【火燕】(【震電】の炎ver)のロックオンによって繋がった炎の力を引き上げて相手の動きを拘束する。※拘束力も任意で調節可能&視認範囲であれば直接相手を拘束する事にも使用可能。

炎滅殺魔法【クライシス・レッド】…極大の炎を相手に向かって十字架状に展開して放って磔にする様に括りつけて大ダメージを負わせる。※使用者のレベルにもよるが基本的に最高位に属する魔法で桁外れの威力となる為、磔けられれば瞬時に焼き尽くされて灰になるのが一般的。