「ラディス=フラグベルトの戦闘記録」  【炎の災禍】編  その2


ラディ「…はぁ…はぁ…はぁ………くっ…そぉ…………しくじった………」


ズルズルともたれ掛った木にへたり込みながらラディスは己の見通しの甘さを呪っていた。
ラスヴェードは確かにクラスAの下位に該当する腕前であり強敵であった。
だが、それでも一度は強力な軍事国家であるバアル軍の総軍の長たる『三元帥』の一角にまで上り詰めていたエリシア=ルオーニフィスと戦うとなれば役不足を否めないレベルであった。

ラディスは予定通りにラスヴェードが潜伏していると思しき地域を割り出して捜索を行い、僅か数時間で見つけ出す事に成功した。
後はその発見の報を受けたエリシアがラスヴェードを得意の結界魔法を駆使して捕まえてしまえば勝利、となるはずであった。


…しかし、ここで予期せぬ事態を迎える事になった。
いや、予想しておくべき可能性を考慮しなかった事による当然の結果と言えばそれまでではあった。

エリシアがラスヴェードを追い詰めたその時、【フレイムディザスター・イオス】の魔剣を携えた元特殊戦技隊隊長、ヴァサーゴが現れたのだ。

特殊戦技隊はブレイドの魔剣兵騎士団に比肩し得るハイレベルの精鋭中の精鋭で構成された部隊。
その隊長格であるヴァサーゴは元騎士団団長のフェリオンにこそ及ばぬとされるものの、その腕前は元帥クラスとであれば充分に渡り合えると称されるだけの実力を備えていた。

……そして、その手には『炎の災禍』と銘打たれたプトレマイオスの傑作魔剣。
いかにエリシアと言えど分の悪い戦いになるのは必然であった。


ラディ「…しかも一対一じゃねぇときやがっちゃ…勝ちよう…がねぇ。……はぁ…はぁ………コルレル…ガブル…ブリトヴァ…そしてヴァサーゴ…か。くそ、確認出来ただけでも…元特殊戦技隊の主要幹部は揃ってやがる…」


エリシアが敗れるまでに視認出来た相手を思い返しつつ身震いするラディス。
シエスタ7914によって行われた元バアル軍の再編により特殊戦技隊は解散しその幹部等もそれぞれの新たな赴任先へと散っていたはずだ。
それがこの様な場にこのタイミングで集っているとなれば、それは異常でありその理由がラスヴェードの行動に起因している事も明らかであった。


ラディ「…ヴァサーゴの命を受けて……ラスヴェードが魔剣を盗み出した…のか。そしてそれに呼応して集った幹部達……どう考えても特殊戦技隊の『反乱』…だな…」


たった二人でどうにかなるわけがない。
ラディスはエリシアの敗北後、敵に囲まれる前に早々に撤退を開始していたにも関わらず満身創痍。
左腕に至っては何とか回復魔法で応急的に繋ぐ事には成功したが…ほんの10分前までは完全に根元から斬り飛ばされていた有様だ。

父の背を追う形で幾度となく戦場を駆けていたラディスだったが、これだけの危地に追い込まれて手酷い重傷を負ったのは流石に初めての事であり、緊張と怪我のダメージで意識が朦朧とし始めるのもまた無理からぬ事だった。


ラディ「……このまま……目が覚めねぇってのは……ナシにして欲しいなぁ……ッ………」


限界を迎えて糸が切れたように意識が途切れるラディス。
追手の捜索がまだ続いている中でのそれは極めて危険な事だったが『限界を迎える』とは抗えぬ状況に追い込まれたからこそである。


挿絵 「重傷のラディス」※負傷表現アリ (先頭にh必要) 
ttp://yui.at/bbs1/sr3_bbss/15616jyunari/8_1.jpg


敵地で意識を失った彼に複数の足音が近付いていても気付かなかったのは無理も無い話であった。




続く



【各種補足】

ヴァサーゴ クラスS 下位 (特定条件下では クラスS 中位)
元バアル軍特殊戦技隊の隊長格の一人。戦いを愉悦とする節があり性格の上ではバアルに近い面が多くラスヴェードが魔剣を盗んだのも彼の反乱計画の一端によるものだった。

アシュタロン クラスA 上位 (特定条件下では クラスS 下位)
元バアル軍特殊戦技隊の隊長格の一人でヴァサーゴの実弟。兄とは常に距離に関係なくお互いの情報を交換出来ると言う特殊能力を持っており理想の副将として戦技隊をまとめ挙げる上で重要な役割を果たしていた。

コルレル クラスB 中位
元特殊戦技隊幹部の一人。ヴァサーゴの命に従って反乱計画に参加。素早い高速攻撃を得手としていて戦場からの脱出に徹したラディスに追い付きその左腕を斬り飛ばす。追撃は続行中。

ブリトヴァ クラスB 下位
奇襲、強襲攻撃を得手とした元特殊戦技隊幹部の一人。戦場の脱出に徹したラディスを幾度となく強襲し深手を負わせる事に成功した。追撃は続行中。

ガブル クラスB 中位
重装甲の鎧盾による物理防御とそれらを強化する防御魔法を得手とする元特殊戦技隊幹部の一人。エリシアが張った障壁結界の護りを相殺による中和や術式の破壊によって切り崩し追い込む役割を果たした。現在はラディスを追撃中。

ベルティゴ クラスA 下位
ラスヴェードと同様に遠隔操作系魔法を得手としている元特殊戦技隊幹部の一人。能力は高いが協調性の面では少々問題があるが今回の反乱には同調することにしたようだ。エリシアを牽制して追い込む役割でその実力を発揮した。現在はラディスを追撃中。

ラスヴェード クラスA 下位
元特殊戦技隊所属の幹部の一人。遠隔操作系魔法を得手としていて戦技隊幹部の中でも高位の実力者。傑作魔剣【フレイムディザスター・イオス】をヴァサーゴに渡してからはエリシアとの戦闘に参加し追い込む役割を担った。現在はラディスを追撃中。