ベアトリーチェの庭園物語 対決、永遠の魔女対黒狼編


 【永遠の剣】と【黒狼の帝】がぶつかり合う金属音が響く、まずは両者互角と言ったところだ。
 「……やはり手強い! だが俺は負けんぞ!!」
 「他のカケラの、恵理穂とそこのあなたの戦いを言ってるのね!」
 「そうだっ!!」
 力と技ではフェリオンに分があったがエターナルも引けを取っていない、それは自身の力もあるし自らの意思を持つ【永遠の腕輪】のサポートもあるからだ。
 「俺だってこんな作戦気は進まないがな、ソード1の名と男の意地に賭けてもお前には負けられないんだよっ!!!」
 「そんなつまらない意地張ってさっ!!!」
 『右です!』
 その時剣をいったん退いたフェリオンの姿が視界から消えた、だがエターナルは迷わずに剣を右へと向け死角からの一撃を受け止めた。
 「……何!?」
 フェリオンは驚愕の表情をする、アインとツヴァイと精神的にリンクする事で一人で不可能な視野の広さとエターナルに不足する戦闘知識の補助を受けているのだ。
 「嫌な事したってさ! 嫌な命令聞いたって、そんなのつまんないじゃないのさ!!」
 「俺にだって責任があるんだよっ!!!バアル軍ソード騎士団のリーダーとしての責任が!! ふらふらと好き放題してるお前にそれが分かるのかよっ!!?」
 「分かるもんかっ!!!!」
 言葉と共に刃をぶつけ合う、実際にはまったく分からない事でもないのだがあえてそう言い張るのはそんな事エターナルにはどうでもいい事だからだ。
 「だいたいお前がもっと責任を持っていればこんな事にはならなかったんだろうが!! 結社にでも所属すればバアルだってここまではしなかったはずだぞ!?」
 『下です!』
 『次は右!』
 フェイントを交えた攻撃にも何とか反応出来るが油断をせずに慎重に剣を振う。
 「あたしはただ平穏に生きたいだけ! 自分の力は自分の使いたいように使う!!」
 「傲慢だぞ!!」
 「……でもね!!」
 エターナルは飛翔魔法を使い一旦フェリオンとの距離をとると腰を落とし剣を後ろへ持っていく形に身体を捻った構えをとる、それはベアトのもつ漫画の中の登場人物が使っていた技だ、それを見よう見まねでやろうというのである。
 「あたしはこの力を使って誰かを不幸にはしない!! それがあたしの責任だよフェリオンっ!!!!」
 その叫びに応えるかの様に刀身が光輝く。
 「お、おい……まさか……!!?」
 「大地を斬り、海を斬り、空を斬りそしてすべてを斬る!!! 見よう見まね【アバン・ストラッシュ】っっっ!!!!!!」
 「何だとぉぉぉおおおおおおおっ!!!?」
 剣から放った衝撃波はフェリオンを襲うが咄嗟に【黒狼の帝】でガードされた、それでも耐えきれず数十メートルは彼の身体を弾く。 もちろんこれで勝ったと思う事はなく案の定フェリオンは素早く立ち上がり剣を構え直す。
 「おいおい! これは見よう見まねってレベルじゃねえぞ!? 何なんだよお前は!?」
 「ううん、見よう見まねだよ? 本物じゃなくてとんでもない紛い物だよ?」
 エターナルはいたずらっぽくそう言うとフェリオンは意味が分からないという顔になる。
 「あたしには剣で岩を砕いたり海を斬ったりは出来ないけど、魔法で岩や海を斬るのは出来るよ?」
 つまり岩を斬る魔法と海を斬る魔法、そして邪悪なものを打ち倒す魔法を乗せ放ったのが先程の一撃なのだ、限りなく本物に近い効果を持つがまったくの紛い物という事だ。
 ベルフェの日にエターナが使った魔法をそうだ、エターナにはメラやヒャドは使えないが別系統の火と氷の魔法さえ組み合わせれば【メドローア】は撃てるしルビーアイの力を借りずとも自身で同等の魔力を引き出せば【ドラグスレイブ】も撃てる。
 「おいおい……そんなのありかよ!?」
 「使えるならありなんじゃない? とにかくそゆこと〜〜〜♪」
 「そゆこと〜〜〜♪じゃねえよっ!!!」
 冷や汗を浮かべて抗議するフェリオンを無視してエターナルは次の攻撃を繰り出す、左腕を掲げこの庭園だけでなく世界中のあらゆるところから魔力を集めていく。
 「……って! おい……!!!?」
 「いっけ〜〜〜【元気玉】〜〜〜〜〜!!!!!」
 フェリオンの抗議はまぶしいばかりの閃光に呑み込まれた。
  

 エンジェとエヴァはどの戦列にも加わらずに二人で敵と交戦状態にあった、バアル軍一般兵やソード騎士団とも違うその禍々しい鎧は特殊部隊だからだろう。
 「少数精鋭での奇襲攻撃をやるっての、思った通りね!!」
 【天使の双刃(エンジェリック・ツインブレード)】を振いながら敵と斬り結ぶエンジェの死角から迫った別の敵をエヴァの魔法が打ち倒す。
 「ちゃんと周りも見てなさいよエンジェ!」
 「はいはい!」
 エヴァのお小言に気のない返事を返しまた敵に集中する。
 「な、何故だ!? エンジェ・ベアトリーチェとエヴァ・ベアトリーチェが何故我らに気が付く!?」
 部下にトモエ・マミルーと呼ばれていた敵の隊長と思われる男がうろたえた声を上げる、奇襲するはずが奇襲されれたのだからそれも当然だろう。
 「フェリオンはともかくね、バアルって奴が相当に姑息だと聞けばこういうの警戒するでしょう〜?」
 エヴァのケーンから放たれた【魔光弾】はをそのトモエ隊長は回避する。
 「ちょっと! 何外してんのよ!」
 特殊部隊の頑丈な鎧を【天使の双刃】で次々と斬り裂いていけるその威力とベアトとの度重なるケンカで培われた戦闘力は彼らを圧倒した。 
 「ちょっと手元が狂っただけよ! 【ゼリーの海】!」
 エヴァの魔法によりトモエと周囲にいた兵士達が足元に出現したゼリーの海に抵抗する間もなく沈んで逝く、もちろん圧死しない程度の深さの加減はしているだろう。
 「な……こんな……これが現実だと言うのかぁぁあああああっ!!!!」
 「……ちょっ……何で私もぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!!!?」
 絶叫を残しトモエ・マミルー隊長とそして水没した機動戦士Bガンダム(万が一本当にBガンダムが登場した場合改名)から命からがら脱出してここまでたどり着いたのであろう蒼いツインテールの少女はゼリーの底へと沈んで逝った、そして残った数をエンジェとエヴァが倒すのには1分で十分だった。
 


 【元気玉】でもフェリオンを倒すにいたらず再び剣撃の打ち合いが再開する、それでも流石にダメージはあるようで開始と比べ彼の動きは鈍くなっていた。
 「……ったく! 朱に交わればってやつかよ、お前まで非常識な真似をっ!!!」
 「非常識で何でも勝てばいいのよ! 勝ってハッピーエンドを迎えればそれでいいのっ!!!」
 「迎えられるのかよ!? バアルを倒したら今度はお前があの国の王となるしかないんだぞ! それともお前は王なき国の民は見捨てるのかっ!!?……うおっ!?」
 横薙ぎに振られた剣をひょいっとジャンプしてかわしとそのままフェリオンの頭を踏み台にして彼の後ろへと跳んだ。
 「あたしは王様なんてならない、なりたい人がなればいいのよ!」
 「そんな無責任なもの言いをまだするかよっ!! お前は何百万というあの国の民を不幸にするって言ってるんだぞっ!!!!」
 「王様なんていなくたって人は生きて幸せになれるわよ! 王様は確かに国を導く存在なのかも知れないけど王様に幸せにしてもらおうって考えはおかしいでしょうっ!!」
 「何っ!!?」
 「幸せになるには自分でがんばって、家族や友達に手伝ってもらって自分もその人達を手伝って……そうやってなるのよ!! 何でもかんでも王様に頼って王様一人に責任を負わせて、その方がおかしいわよっ!!!!」
 エターナルの斬撃をフェリオンは受け止めたが間近で見るその顔には戸惑いが見て取れた。
 「だがそれはお前が力を持ってるからだ! 強者の驕りなんだよ、それを判れよっ!!!!」
 「力なんて関係ないわ! 王様が必要なら自分達の誰かがなるか適任者を探せばいいのよ、あんたの国の民だって大人でしょうっ!! 自分の足で立って自分の頭でちゃんと考えて行動出来るでしょうっ!!?」
 「お前はっ!!?」
 「だけど大事なのはそこじゃないのよっ!!! バアルはあたしにちょっかいを出して皆にも迷惑をかけたの! そんなの許せないからバアルは絶対ぶっとばして謝らすっ!!!」
 怒涛の連続攻撃をエターナルは仕掛ける、剣術の型や技なんて気にしない勢いと感情の攻撃だった、他人の都合を軽んじてはいけないがそのために自分や友達が不幸になるなんて許せない。
 身勝手でも傲慢でもいい、誰かのために自分が不幸になるなんて嫌だった、自分が幸せになってそれで誰かを幸せにする、そんな想いを剣に込めフェリオンにぶつけた。


 エクシアにとってはベアト邸の屋根に上るのは造作もないことだった、そして思った通りそこに敵はいた。
 「……一応あなたの名前の目的をお伺いしましょうか?」
 「……てめえ……」
 にっこりとほほ笑みながら言うと漆黒のローブを纏ったいかにもという魔導師風の男はぎょっとなってエクシアを睨む。
 「たった一人で乗り込んでいらっしゃると言う事は暗殺者の類だと思うのですが?」
 「……ああ、そうだ。 私の名はカラ・ムーチョ、バアル様の命を受けエターナを誘拐に来た」
 「エターナさん?」
 一瞬怪訝に思うが良く考えればエターナルの元の姿とも言うべきエターナを捕え利用する事も考えてもおかしくないのかも知れない、彼女にも神クラスの魔女になれる素養はあるはずだろうから。
 「……成程、ですが残念な事にエターナさんはこちらにはいらっしゃいませんよ?」
 「……はっ!? 何だとっ!!!?」
 「いつの間にか姿を消してしまっていて……おそらく十夜さん達のところへ行ってるのではないでしょうか?」
 「待てい! 何だそれは、あんな子供が前線に行ってるというのか!?」
 普通に考えればエターナは非戦闘員として安全な所にいると誰もが思うだろう、だがそんな常識が通用するような子ではないのがエターナだ。
 「……それにお前は七剣(セブンスソード)のエクシアだな! お前程の実力者が何故前線にいない!?」
 おそらくバアルもこのカラもフェリオン相手なら非戦闘員を襲う心配も少なく護衛に戦力を割くはずもないと計算したのだろう、だがベアトがこの状況を予測したのかそれとも偶然の産物なのかとにかく自分はここにいる。
 「さて、なんででしょうね?」
 笑顔で言いながらエクシアは短剣を投げつけカラが取り出したダガーを弾いた、そして屋根という足場の悪い場所というのも気にせず跳躍しカラの眼前に着地し別の短剣を突き付ける。
 「……うっ!?……だが私は降伏はせん……って!?」
 エクシアはカラを思い切り蹴飛ばす、不意を付かれた彼は無抵抗に屋根の下へと落下してく、三階の高さなら魔術師であれば死ぬ事はないだろう。
 「……おちてきたよ! べあとちゃん、マリアおねえちゃん!!」
 「う〜〜〜攻撃開始〜〜〜〜!!!!」
 「はい、やっちゃいましょうセツナちゃんもいいですね?」
 「うん!」
 「……な、何だお前らは……あぎゃぁぁあああああああああああっ!!!!?」
 屋敷の下からはあらかじめ待機していたパワフルなちびっ子達の元気な声と憐れな魔術師カラ・ムーチョの声が響いてきたのだった。
【永遠の剣】の刃がフェリオンの首筋に突きつけられ決着が付いた。
 「……殺せ……なんていわないでよ?」
 「言うかよ……ったく、結局負けかよ……」
 ふてくされたように言うが結局はこれでいい、これで一応主にバアルに対する義理は果たしたのだから。 後は捕虜にでも何にでもなっていれば少なくとも刻夢達に迷惑はかけない。
 「……だが、お前はこの後どうする気だ? 本気でバアルを倒すと?」
 「そうだよ、本気だよ?」
 戦ってみて分かったがエターナルは確かに強いがバアルに勝てるかは微妙な所だった、潜在能力はともかくシエスタ7914の様な戦闘経験が圧倒的に足りなすぎるというのがフェリオンの見立てだ。
 そしてそれは本人も分かっているだろうにお軽い調子で言ってのけるのであるから呆れたものだ。
 「そういう考えなしのところを直さないといつか痛い目を見るぞ?」
 「その時はその時だよ?」
 「…………」
 いったいどこからこの自信が湧いてくるのだろうと思う、バアルに勝ったとしてもそれですべてが終わるわけではなく、むしろバアルを倒した魔女としていいにしろ悪いしろ各所から付け狙われるだろう。
 その意味ではバアルに代わり国王となったほうがまだ安全と言える、国家の軍事力と権力に守られるのだから。
 「……そうかもね、でもさフェリオン……」
 「ん?」
 「あたしって頭悪いからさ、何が正解で何が間違ってるかなんて分からないんだ……だからね、ひとつひとつの事に体当たりで自分がしたいようにぶつかるしか出来ないんだよ……エターナを、昔の自分を見ててそう分かったんだ」
 「お前……?」
 「だから、あなたも自分で決めて、流石にバアルの元へは返せないけど……あくまでバアルの味方でいるかリムの味方でいるかをね?」
 真摯な目で見据えられたフェリオンは戸惑う、そして気が付いてしまう。 捕虜でいればいいというのはそれは単なる逃げなのだ、バアルも裏切らず刻夢も裏切らずにいようという都合のよい言い訳だった。
 戦闘時にエターナルの事を無責任と言ったが自分のするべき事を決め実行している彼女より決断を先送りにしていた自分の方がよほど無責任ではないだろうかと思えた。
 「……少し時間をくれ」
 今のフェリオンはそれだけ言うのが精いっぱいだった。 
 
 
 
 二万の大軍が押し寄せたと聞いた時はハラハラとしたものだったが、魔女の喫茶室で無事にバアル軍を撃退出来たと知ったラムダデルタは安堵する。
 「……で? あんたは何してんのベルン?」
 ベルンカステルは何やらノートの様なものに何かを書きこんでいた。
 「……ん? ああ、これは採点表よ、ヱリカのねぇ〜★」
 「……は?」
 今回のシリーズだと流石に毎回ヱリカを祭具殿逝きにも出来ないので、バアルとの決着が付いてから全部まとめて執行しようとこうして彼女評価を記録しているのだと説明した。
 「へ〜〜? んで、今は何点くらい?」
 「……そうね、マイナス50点ってとこかしらぁ? 祭具殿に換算すると四回分くらい〜?」
 「あらら〜それはヱリカもご愁傷様ねぇ〜〜♪」
 まったくの他人事なのでラムダは気軽にそれだけ言ったのだった。