ベアトリーチェの庭園物語 庭園の大戦争開始編
 
 バアル軍は広く展開しベアトの庭園を包囲する様に攻め込んでいる、それは”少数を攻撃する場合は包囲し退路を断つ”という戦術の基礎則った行為だ。
 そのためベアト側も戦力を分散しての防衛戦を余儀なくされている。
 「ここは通さんっ!!!」
 「家具風情が強気に言う!!」
 ルシファー達煉獄七姉妹と”黒山羊部隊数百は倍近いバアルの兵士と戦闘状態にあった、【ブレード】を展開しそれぞれに敵と斬りむすんでいる姉妹達は、しかし苦戦している。
 「ルシ姉ぇ! このままじゃぁっ!!!」
 「泣き事を言うなアスモ!……うっ!?」
 バアル兵の剣が胸のあたりを掠めヒヤッとする、アニメの様に胸チラでファンサービスをする気はない。
 「他人を心配してる場合かよっ!!!」
 「場合だっ!」
 振った【ブレード】はその兵士を斬り倒すが目の前にはまだまだ数えきれない兵士達がいる、このままでは先に力尽きるのはルシファー達である、そうこのまま行けばだった……。
 
 「【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】っ!!!!!!」
 
 突如として響いた凛とした女性の声と共に訪れた衝撃波がバアル兵数十人を吹き飛ばした、そしてその技を放った銀色の鎧を纏った金髪の少女はバアル兵の中へと突撃し目には見えない【不可視の剣】を振う。
 「セイバー殿かっ!!」
 「すまない、遅れた!」
 ベアトリーチェが別のカケラから召喚したセイバーという剣士はルシファー達が苦戦したバアル兵達を次々と倒していく、突然すぎる援軍にバアル軍が浮足立ち始めた。
 「……な、何だこの騎士はっ!?」
 「ベアトリーチェにこんな騎士がいただとっ!!?」
 「ただ平穏に生きたいとする者達を圧倒的暴力で踏みにじろうとする所業このセイバー……いや、アーサーとこの【エクスカリバー】の名において許さんっ!!!!」
 王たるものが放つ威圧感を秘めた恫喝はルシファー達にとっては頼もしく、しかしバアル軍にとってはこれ以上ない程恐ろしいものだろう。
 「我らも負けておれん!」
 ルシファーの心からは先程まであった不安は消し跳んでいた。


 「……はぁっ!? 今度は何だってっ!!?」
 「……で、ですからその……セイバー…だと……」
 「セイバーガンダムかGセイバー……じゃねえな、サーヴァントのセイバーかよっ!!」
 予想はしていたがやはりとんでもないものを出してきたとフェリオンは頭を抱えたくなる、もちろんセイバー一人で戦局は変わらないだろうがこれだけで終わるとは到底思えない。
 そしてそれを肯定するかの様に次々と部下からの報告が届くのだった。


 ガァプは得意の空間転移を使いバアル軍を撹乱する、姿を消しては意外な場所からの攻撃を放つ彼女の戦法は多少は混乱をさせたようだがそれは微々たるものでしかない、だがそれでいい。
 「【べギラゴン】っ!!!!」
 「【ギガデイン】!!!!」
 閃熱と電撃の魔法にバアル兵達が黒焦げにされる、その魔法を放った男二人は剣を抜くと前に進み出る。
 「……ふっ、まさかこのような場所で再び戦場に立つとはなハドラー?」
 「ふん、俺もお前と組むとは思わなかったぞバランよ?」
 「ちょっと! 格好付けてないでよね! 敵さん来るわよっ!!」
 ガァプの文句に男達は笑いあうと【真魔剛竜剣】と【覇者の剣】を構える、そのいで立ちは歴戦の勇士である事を思わせる。
 「……仮にも元魔王だったこのハドラーと!」
 「竜(ドラゴン)の騎士であるこのバラン!」
 二人は地を蹴り駆けだす。
 「「その力をとくと見るがいいっ!!!!」


 シエスタ45S・F(ストライクフリーダム)とシエスタ410I・J(インフィニットジャスティス)のフルバーストでもその数は一向に減る気配がない。
 「まったくキリがないにぇ……」
 「こ、このままじゃ……!!」
 「弱音を吐くな二人共!!!!」
 45S・Fと410I・Jを叱咤しながら【クアンタブレード】を振うシエスタ00だが自身の心も折れかけていた、高い火力を有していても……いや、だからこそ魔力の消耗は激しく物量を持っての消耗戦では不利になる一方だった。
 「00! 敵の増援がっ!?」
 シエスタ556の悲鳴にも近い叫びにはっとなる、見るとさらに数百の敵がやって来ていた。
 「ソード騎士団でなくともバアル軍ならシエスタを目の敵にするか……」
 厄介なと思いつつもその分他の味方のところに振り分けられる戦力が減ると思えばそれもいいかも知れない、仲間のために捨石になるのもまた武具の本懐である。
 しかしそんな覚悟も突然響き渡る老人の叫び声に打ち消された。
 「がっはっはっはっはっはっ!!!! だからお前らはアホなのよぉぉおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
 「「「「……はいっ!!?」」」」
 叫びと同時に乱入してきたおさげの老人拳法家が眼前のバアル兵達を人知を超えた動きで屠って行く、その姿に00だけでなく他のシエスタ三人も思わず攻撃の手を止めてしまう。
 「……な、何だ貴様は……!!!?」
 「ふっ! 儂の名はマスター・アジア! 流派東方不敗マスター・アジアよぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!!」
 「と、東方だと……ぐあっ!?」
 「そうよ! 一時的とはいえ現世に舞い戻ったというなら我が力をとくと披露してやるわい! 東方と言えば東方シリーズだの東方神起だのぬかす若造共に東方と言えば東方不敗であると知らしめてやるわぁぁぁああああああっっっ!!!!!」
 老人なのに大声で長ゼリフを叫びながらも息を切らす事すらなく次々と敵を倒していくマスター・アジアの姿に00は”超人”という言葉が浮かんだ、とても常人に出来る芸当ではない。
 
「受けて見るがいい! 流派東方不敗が最終奥儀【石破天驚拳】っっっ!!!!!」 


 よもやこの男と共に戦う日が来るとは夢にも思わなかった十夜だ。
 「何だ! バアル兵とはこの程度か!?」
 赤と黒のパワードスーツにも思える外観の男が上下に刃のついた風変わりなランサーを振い敵をなぎ倒していく、その圧倒的な強さの前に宗二や刻夢も唖然となっていた。
 「アイバ・シンヤ……いや、テッカマンエビルの強さとんでもないな……」
 ベアトリーチェもとんでもない英霊を召喚したものだと呆れる、数で負けるなら質を高め勝負しようというのは分かるがこのクラスの大量召喚では召喚者の負担も相当なものだろう。
 「……って! 俺だって負けてられるかよっ!!!!」
 対抗意識を燃やしたのだろう宗二が【智天剣】を手に斬り込んで行くのは想いを寄せる刻夢が一緒にいるからだろう、もしもエクシアがこの場にいれば自分とて宗二と一緒に斬り込んで行っただろう。
 「……あの……私達は行かなくていいのかな?」
 「ん? 彼に、エビルに任せられるならその方が良い、戦いはまだまだ続くし英霊とてそう長期間は維持出来ないからな、温存出来るなら俺達は力を温存すべきだろう」
 自分達があまり戦っていない事に気が引けたのだろう刻夢にそう答える、それは戦略的に正しい判断ではあるがいざその時になっても彼ら英霊達程に戦えないだろうと思うとはがゆい気持ちになる十夜だった。
 「うりゃぁぁぁあああああっ突撃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 そんなシリアスな十夜の思考はこの場に似合わない脳天気な少女の声に阻まれた。
 「……って! お姉ちゃん!? 何でぇぇぇええええええええっ!!?」
 「な!? あれ程言ったのにエターナめ、ついて来たのかっ!!!」
 【永遠の音金槌(エターナル・ピコハン】を手にしたエターナは怖いもの知らずな勢いで敵集に特攻する、その幼女の突然の乱入にバアル兵だけでなくエビルもまた驚く。
 「……な、何なんだこの子はっ!?」

 「いっけ〜〜〜〜【エターナ・ビックバン】〜〜〜〜〜〜☆」

 十夜がやばいと思った時にはありったっけの魔力を込めた【永遠の音金槌】は振り降ろされていた、そしてピコッ♪という可愛い音と共に大爆発の轟音と衝撃が周囲がバアル兵やエビルまで巻き込んでいく。
 「な……なんだとぉっ!?」
 「うぉぉおおおおっエターナ何やってんだぁぁあああああっ!!!!?」
 「くっ!?」
 「きゃぁぁぁああああああああっお姉ちゃんの馬鹿ぁぁぁああああああああああっっっ!!!!」
 ベアト側が次々と優勢になる中でこの一帯の戦場だけは勝者も敗者もない阿鼻叫喚の地獄絵図となってしまった。 
 

 どう考えても形勢は決まるつつあると認めるしかなかった。
 「……ベアトリーチェめ、【英霊召喚の儀】かよ!」
 異界のカケラにて死し英霊となった勇士達を召喚するその魔法はこれまで誰も使えた者はいない、それは因果関係のほとんどないカケラとの間の”壁”を突破出来なかったからだ。
 理論上は可能であってもそれは互いに干渉しあえないという世界における絶対的なルールとして存在し誰であってもそれは破る事は出来ないと言われていた、しかし日常的にウルトラ怪獣だのモンハンのモンスターだのと非常識なルール破りをしているこの庭園はその絶対的なルールすら無視してみせたのである。
 「……我らは敵の恐ろしさを見誤っていた……?」
 ソード2がそんな事を呟いている、こうなればソード騎士団を投入し全部隊の撤退を援護させるしかない、これ以上の戦闘は無意味だ。
 だがそのソード騎士団がシェリーの物と思われる兵器に襲撃されたとの報告が届く。
 「何だと!? シェリーって事はまさか戦車、ヨルムンガンドか!?」
 「わ、分かりません! 緑の眉毛を付けたようなのと白いヒゲを生やした巨人だと……」
 巨人という言葉に一瞬戸惑うフェリオンだったが眉毛とヒゲという組み合わせに思い当たるものがった。
 「おいおい……まさかターンXとホワイトドール……∀ガンダムだってかよっ!!!?」


 「がっはっはっはっ! やはりこのターンXすごいよ! 流石∀のお兄さんっ!!!」
 
緑の機体――ターンXのコクピットでテンション高く叫ぶのはギム・ギンガナム御大その人だった、その後ろに立つ∀ガンダムの狭いコクピットにはパイロットのシェリーと無理矢理について来たリリーだ。
 「……ちょっ……何なんですかあの人間は!?」
 「いや〜〜、マウンテンサイクルでこの二機を掘り出したらあっちのコクピットにあのギム・ギンガナムがいたんですよお師匠様〜」
 どうもターンXと∀ガンダムの月光蝶に巻き込まれた後機体と共にマウンテンサイクルで眠っていたようだ、殺しても死ななそうなタイプだなと思っていたがやはりである。
 「……って、じゃああのギム・ギンガナムは英霊じゃなくて生身の人間って事ですか!? あの男は本当に人間なんですかっ!?」
 「あんまり大声出さないでください! 狭くて響くんですから!」
 シェリーだけでは心配だからなどと言ってはいたが本音は出番ほしさだろうとシェリーは確信している、ただでさえ登場人物が多いのだから何もしないでいればセリフの一言もなくリリーはこのシリーズを終わるのだと言う不安にかられたからこんな狭いコクピットに無理矢理乗り込む事をしたのだろう。             
 (まったく、困ったお師匠様です……)
 シェリーが心中で苦笑している間にソード騎士団は死者こそいないがすでに壊滅寸前だった。
「……ねえエクシア、あたし達こんな事をしてていいのかな?」
 不安げに呟くセツナ達がしているのは皆の食事となるおにぎりを作る事だった、えんじぇやマリア、べあとと言った非戦闘員に属する者たちはほとんど厨房に集まっている。
 「大丈夫です、がんばっている皆さんのために美味しいごはんを作る、これはとても大事な事ですセツナ様」
 そう言って優しく主の少女の頭も撫でてあげる。
 ベアトがエクシアに指示した役割は彼女ら非戦闘員の護衛と食事作りだった、”偶然に庭園を訪れて戦闘に巻き込まれたセツナとエクシアは非戦闘員と共に避難”というのがベアトの筋書きだ。
 これならもし敵がベアト邸までやって来たとしても主を守るための自衛として名目が立つし、プトレマイオス家とて食事を作る程度の協力でいちいち目くじらは立てないだろう。
 「武力を振うだけが戦いではないんですね、お姉様はやはりすごいです」
 「ヒナトさん?」
 「お姉様は私達にただ逃げて守られていろと言うのではなく、私達の戦いをしろって言う事なんですよ」
 ヒナトの言葉にエクシアは成程と思う、食事を軽んじていては戦いは出来ないし後方とは言ってもいつ戦闘に巻き込まれるかも知れない場所で食事作りというのも勇気のいることだ。
 「……あたし達の…戦い……?」
 「そうですよセツナちゃん、私達は私達に出来る事で皆を助けましょうね?」
 「……うん!」
 優しく微笑むヒナトにセツナは力強く返事を返すのだった、そんな微笑ましい光景を見つめていた時にエクシアの戦士としての感覚が敵の襲来を知らせた。


 「全軍各自の判断で撤退! 急げよ!!」
 「は、はい……」
 フェリオンはソード2にそれだけ言って目の前の敵――エターナルを見据える、ソード2がその指示に素直に従ったのは一対一でフェリオンが負けないと信じているからだろう。
 そしてエターナルはソード2を黙って見送るのは彼女の性格を考えれば当然だった。
 「お前を倒し捕えればこっちはある意味目的のひとつを達した事になる、それを分かっていて来たのか?」
 「あなたを倒して捕まえちゃえばリムが安心するからね」
 もう自分と戦う必要もないとなるとそうだろうなとは思うがエターナルが捕まってしまえばベアトリーチェ達のこの戦いの努力を無にする事になる、そのリスクを考えればエターナルのこの行動は迂闊にも程がある。
 それを言うと彼女は「そうだね」と笑う、その笑みはエターナを彷彿させるような無邪気なものだった。
 「……ま、捕まらなきゃいんだしね〜♪」
 そう言いながら【永遠の腕輪(エターナル・ブレスレット)】のアインを【永遠の剣(エターナルソード)】へと変化させる、フェリオンもまた【黒狼の帝】を抜くと構えた。
 「このソード1相手にその自信はお前が神クラスの魔女だという自信か?」
 「さあ? 負けなきゃいいんだから負けなきゃいいんじゃないの?」
 「……おい! 何だその理屈は!?」
 まるでエターナに戻ったかのようなメチャクチャな理屈だった、その表情には迷いも不安も、そして深い考えもまったくないように見える。
 「いいだろう、なら後は剣を交えるのみ!!」
 「うん! いっくよ〜〜〜♪」
 そして黒狼対永遠(とわ)の魔女の対決は始まった……。