シュリ・ベアトリーチェの挨拶式伝 ファイナル(後編)

シュリが消えた後の幻想法廷、だがベルンカステル達はまだそこから立ち去ってはいなかった。

「・・・本当に来るんでしょうね」

そういい始めたのはベルンカステルだ、いつものように無表情ではあるが声に苛立ちがこもり始める

「うむ、来ると言ったら来る。私の感覚に狂いはない」

そう自信ありげに答えるセイント、その口元には若干ながらそれを楽しみにしているような子供のように笑みを浮かべている

「・・・その感覚とやらが錆付いてないことを祈るわ」
「フフフ、心配はいらぬよ。・・・もうキタ」

セイントが言うや否やそれは突然幻想大法廷へ飛んできた、其の場所にある全てを飲み込むかのような巨大な光が収まると同時に白い服装に身を包んだシュリが不適に笑みを浮かべて戻ってきたのだった

「クッ・・・・」

ベルンカステルが俯いた、怒り?それのせいか全身を震わせている

「クククッ」

違う、これは嘲笑であった。
戻ってきた哀れな贄に対する残酷な笑み

「あははははははは、あーっははははは!!そう、戻ってきたのね。そうよ、そうでなくっちゃ面白みがないもの!!
いいわ、さぁ、幻想法廷を再開しましょう。でもその前にアンタにはさっきの赤字を破ってもらわないとねぇ!?」

「・・・破る必要なんてありませんよ。ベルンカステル卿、私は私ですから」
「ハァ?何を言ってるの、あんたの正体は・・・」
「それは、後でのお楽しみにでもとっておいてください。その前に、私の忠実な家具達を返して貰いますよ。」
「何よ、その余裕・・・いいわ、ならアンタのボロカス家具達を徹底的に苛め抜いて・・・」
「それも、させません。」

にっこりと笑みで返すシュリ、その余裕の表情にベルンカステルの表情に多少の焦りが浮かぶ

「その前に確認です、ベルンカステル卿。私の家具達に使った赤字を教えてください」
「・・・どうせお前達は作られた存在。ゲロカス妄想で彩られた屑であることをね!!
そう言ったわ」
「本当ですか?それだけ・・・・?」
「いいや、違うぞ。全文はこうだ
さぁさ、思い出してごらんなさい。お前達はどれほど希薄な存在だったかを!!
どうせお前達は作られた存在。ゲロカス妄想で彩られた屑であることをね!!

そうであろう?ベルンカステル卿」

バルコニーで見ていたセイントが面白がってクスクスと笑う

「余計なことをッ・・・」

ベルンカステルの表情が険しくなる、だがシュリは何かを考える仕草をするだけで悲しみの表情を浮かべることもなかった

「そう、それでは確かに近衛兵達は反毒素にやられてしまうわね
その赤字を否定するには・・・うん、これしかないわ
麻生青龍、斎城瑠樹、柳犀忍、麻生朱雀は死亡しているッ!
「な・・・んですって・・・!?」

主が家具の死亡を宣言する、それは確実にありえないこと
だがそれであるからこそ次の手がわからない!!

「これが私の家具を取り戻す真実よ!!
シエスタ近衛兵のオリジナル達は死亡しているッ!しかしコピーから作られた近衛兵達はオリジナルではない。よって、オリジナルと近衛兵達に共通する運命は存在しない!!

それを宣言した時、黄金の蝶の爆発的な乱舞が法廷を包み込むようにおきる

「戻りなさい、シエスタ近衛兵!!」

シュリが片手に持っていた片翼の鷲の杖を振るうと黄金の蝶の乱舞達が形を作っていく

「シエスタ319、ここに」
「シエスタ332、ここにや」
「シエスタ321、ここにですッ」
「シエスタ453、ここに」

ザッと一礼をする近衛兵にシュリは涙ぐんだ表情となったがその涙を手で拭う
そして、四人にむけて笑顔をつくる

「馬鹿っ、おかえり!!」
「はい、マスター。ただいま戻りました」
「そこは真面目に受け取るとこやないと思うけどなぁ、これやから319は」
「はいはい、332兄さんもギャグっぽくしようとしない」

キャッキャッと笑いあう近衛兵達にベルンカステルは面白くなさそうに舌打ちをする。

「ふざけんじゃないわよ、このゲロカスがッ!!何が・・・」

其の言葉はふいにバルコニーから降りてきたフェザリーヌによって閉ざされる

「それ以上はみっともなくあるぞ、我が巫女よ。それに、私は一番聞きたいことがある
シュリ・ベアトリーチェ、そなたにかかる赤字の真実を」

「わかりました、フェザリーヌ卿。これが、私の赤字への反論です。
加宮朱裡は死亡している。しかし、死亡するのは12年後であり、それまではどの世界へも行き来は自由である。
「ほぅ、近衛兵達はオリジナルとは違うと宣言しておきながらそなたはオリジナルと共にあるということは否定しないのか」
「ええ、それが私の答えです。でも、私は私、朱裡は朱裡なんです。だって、私には近衛兵達が、朱裡には大切な仲間達がいるんですもの」

その言葉にフェザリーヌは何も言わなかった、そして変わりに拍手をおくる

「うむ、そなたの青は有効であろう。さきほどの失態を失態と思わせぬ実に良き手である」
「・・・チッ」

満足そうなフェザリーヌに舌打ちをするベルンカステル
シュリもまたそれで終わったものだと核心していた、だが・・・・

「残念ながら、まだ終わりではないぞ。我が茶葉」

バルコニーから降りてはきていなかったセイントがニヤニヤと笑みを零しながら告げる
その様子にシュリもまた表情をほんの一瞬だけ強張らせる。

「しかし、このゲーム盤としては既に終局も同じ。続きは別のゲーム盤を用意しよう
・・・ベルンカステル卿、もう1局お頼みできるかな?」
「何をさせる気よ、ロリババァ・・・」
「そなたの自慢の駒で次の対局を進めてほしい、無論、卿には別のゲーム盤の準備もあるのであろうから無理にとは・・・」
「やらせなさいよ。私にはここで引き下がるほど大人しくないわ、よくも私をこけにしてくれたそこの魔女を飽き足らぬほど虐めなきゃ気がすまないわ」
「そういうと思っておったわ、クククッ。そしてシュリ、そなたにもルールを課そう、そなたは次のゲームで駒を一人、呼ばねばならぬ
そしてその駒でベルンカステル卿の駒を打ち破れ、さすれば私との契約も無となるであろう」
「・・・わかったわ、どうせアンタのことだから私が呼び出す駒を指定してるんでしょ?さっさと言いなさい」
「うむ、そなたが呼び出す駒は・・・・加宮朱裡だ」




そして語り終えると彼女は口を閉ざした
応接室で掛かった時間は約1時間前後といった感じか

「・・・という物語なのです。いかがでしょうか、先生」

その話をじっと聞いていた八城十八は閉じていた目をゆっくりと開いた、それはさながら子守唄でも聞いていたように穏やかな笑顔ではあったがすぐにそれは消えるといつものような笑みを浮かべた
「なるほど、これが貴女の話ですか・・・」

そういって目の前にいる人物を見る
今、彼女の目の前にいるのは縁寿ではない、白っぽい白銀の腰まである髪を二つに結わえ、おさげ状態にした女学生である

「はい。・・・・お気に召しませんでしたか?」

少し不安そうに八城を見る女学生

「いいえ、偽書にしてはよくできている部類でしょう。もっともこれは六軒島の真相に至った訳ではない、それでも探求を求める人の子よ。そなたの努力だけは評価してあげましょう」
「あ、ありがとうございます!!」
「で、この物語を紙に書き留めなかった理由は?」

八城の質問に女学生はきょとんとする
そう、彼女は八城に紙に束ねた物語を持ってきたのではない、口伝えで語ったのだ
むしろそれがなければ八城は彼女を自宅に入れることもなかったかもしれないのだが

「私はこの物語を先生だけに伝えたかったのです。紙は何人にも見せることはできますが、口伝えは言おうとしなければ誰にも伝わりません
というか私の創った物語を先生以外の豚になんか汚されたくなかったですから」
「ふふふっ、私は気に入りましたよ、人の子よ。
それで、物語はこれで終わりですか?」
「いいえ、まだ続きがあります。
そしてそれこそが私の中では傑作であると自信を持ってお勧めできるものです」
「・・・それは楽しみですね。タイトルはもう決まっているのですか?」
「はいっ、うみねこのなく頃にEpisodeEX-Griefofgoldenwitch-
黄金の魔女の嘆き、ですっ」
「それはそれは・・・また楽しみな内容ですね、くすくすくす」



これで、小さき異世界の黄金の魔女による挨拶式伝は終了です。
お疲れ様でした、ささやかながら黄金の魔女によるTIPSをご用意しました、ご一読いただけると幸いです