シュリ・ベアトリーチェの挨拶式伝 ファイナル(前編)

暗い・・・ここは、何処?
何もない、ただの闇の中・・・私は・・・どうしてここに?
あの時と同じ、私が、存在を否定されたあの時と・・・・
嫌、やめて!!私をあそこへ連れ戻さないで!!
暗闇は嫌い、一人きりなのも嫌いっ!!
私は・・・・

ドスン

「いったたたた」

気がつくと私は再び見知らぬ場所にいた
時間泥棒の魔女達のカケラから帰還する途中でふと意識を失ってここに流れ着いてしまったのだろうか、突然のことでしりもちをつくように着地してしまったらしい
うう、ズキズキと痛い・・・だけどその痛みはこれが現実であることを証明してくれる
到着した場所は大きな書庫だった
見たことはある・・・そうだ、ここは六軒島の主の書斎に似ているのだ

「・・・誰だ?」

ふと後ろから声をかけられて振り向くとそこには赤髪の青年が立っていた
そうだ、彼に違いない。私はスカートの裾をつまんでお辞儀をする、そうだ、一番彼にはお世話にならなきゃいけないのだ

「初めまして、無限の魔術師、バトラ卿。私はシュリ・ベアトリーチェ、数多あるカケラの海の一つより参った魔女でございます。」
「ああ、詳しいことはベアトから聞いてる。なんでもシエスタそっくりの武具を扱うだってな」
「え、ええ。そうですとも、領主様のご許可がいただければいつでも召還しっぱなしにはできるのですが・・・」
「へぇ、許可したらいつでも何処でも暴れ放題ってとこか?」
「そ、そんなことはありません!!近衛兵は私の・・・・・!」
「じょ、冗談に決まってるじゃねぇか、そうムキになるなよ」
「バトラ卿は冷たい方です・・・・」
「なぁ!?ど、どうすればいいんだよ・・・・」

少し私が目に涙をためただけで焦るバトラ卿、本当に彼はニンゲンらしい魔女だ
いや、半分半分、といったところか・・・・どちらにも化けれる
ゆえに、恐ろしいのかもしれない
すると、コンコンと扉がノックされる

「え・・・?あ、開いてるぞ」
「はい、失礼します。戦人さん」

ドアが開いてみると二代目様が入ってきた、さらにその後ろには紅茶とお菓子を持ったロノウェ、異端査問官のドラノール・A・ノックスも続いて入ってきたのだった

「ドラノ−ルもお茶に誘われたのか?悪いな、仕事があっただろうに」
「甘いものに誘われただけですのでお気になさらずニ」
「大勢の方が楽しいですよ、シュリさんもよければどうぞ」
「え、ええ・・・いただきます」

若干ドギマギしながら四人でお茶を楽しむことになった
他愛ない話で盛り上がる三人に私はどこか疎外感を感じてしまう
ここは違うと・・・・そう感じてしまうのだ

「そういえば、最近になって卿のお二人が静かになっていますネ」
「ベルンカステル卿は次のゲームとやらの製作にいそしんでいるのであろうな」
「けど、かえって静か過ぎると不気味なんだよな」
「ベルンカステル卿のゲームまでにはあと五ヶ月弱もありまス、この時期において静かすぎるというのは些かおかしいとは思いませんカ?」

ドクン
何故だろうか、いきなり卿の二人の話題になったと途端に胸騒ぎがしだした
心に浮かぶのは近衛兵達の姿
何故・・・?わからない、でも・・・
その瞬間に私は椅子から立ち上がってその場から逃げるように去っていった

「・・・・?どうしたんだ、アイツ」
「不思議な子ですよねぇ・・・この間も急にこのカケラからいなくなっていたんですよ」
「・・・・何かありますネ」

走る、その長い廊下を走っていく誰にも会わなくなるような場所まで
部屋の角を曲がろうとしたその時!!

ドンッ

「きゃあっ!!?」
「いったぁい、気をつけなさいよ!!」

ぶつかったのはラムダデルタ卿だった

「も、申し訳ありません!ラムダデルタ卿」
「ふん、わかればいいのよ!今度ぶつかったらお菓子に練りこんで焼いてやるんだからね」

悪態をつくラムダデルタ卿にお辞儀をしてパタパタと再び廊下をかけていく
それを見送ったラムダデルタはポツリと呟く

「・・・・見せてみなさいよ、シュリ・ベアトリーチェ。アンタが私に認められたというべきその絶対なる意思を」

何処まで走るのだろう、何処へと行くのだろう、そんなことは考えてもいなかった、人のいない場所へ
ただそれだけを考えて走り続け、ようやく立ち止まる、少々走りすぎたのか息も絶え絶えとなってしまっていた

「さっ・・・・319、332、453っ・・・321。いるんでしょ・・・?でてきなさゲホン」

走った後のせいかまだ呼吸が荒くなってしまう、それでも呼んでいるのに来ない近衛兵達に苛立ちが募っていく

「さ、319!!332、453、321!!さっさと出てきなさいよっ、そんなにお仕置きされたいわけ!?
ふざけていないで姿を・・・・!」

「現れないわよ、あの四人は」

突然の声に驚いて振り向くとそこにはベルンカステル卿がニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「べ、ベルンカステル卿・・・?どういう意味ですか、貴女は一体何を」

「これより、幻想法廷を始めるの。シュリ・ベアトリーチェ、アンタの存在を無にしてあげるためのね」

ベルンカステルがそう告げるとその場は瞬く間に大きな広間へと変化した

「くっ・・・・」

本能的にマズイ状況であるのを悟り、シュリはその場から離れようと黄金の蝶へとその身を変えたが次の瞬間、赤色の光によって逃げることは阻まれた

「・・・遅くなりましタ。ベルンカステル卿」

シュリを阻んだのはドラノールの赤鍵、そして其の傍らにはコーネリアとガートルードの姿もある

「よく来てくれたわね、アイゼルネ・ユングフラウ。こんな時こそ役立つわ
・・・さぁ、シュリ・ベアトリーチェ。アンタはどんな惨めな最期を見せてくれるのかしら?」

ベルンカステルはニヤァっと邪悪な笑みを浮かべながらシュリを見ていた

「アンタのゲロカス家具達は無駄に頑張っちゃっていたけれど、仮にもニンゲンから魔女になったアンタは違うわよねぇ」

「なん・・・ですって・・・?」

「まだわからないの?近衛兵達は私が存在否定してあげたのよ、元々、存在すらしないカケラの世界のニンゲンをコピーしただけのゲロカス家具なんて最もくだらない幻想だけれどね」

「きっ・・・きさまぁぁぁ!!!」

ベルンカステルに向けて持っていた片翼の鷲の杖を振りかざすシュリ
だが、激情に任せて振っただけのそれは卿の魔女をとらえることはなかった

「おかしいったらありゃしないわ。元々アレはアンタの家具じゃなくてアンタがこの世界にいるために創られたようなもの。
それがなくなっただけで馬鹿みたいに騒いじゃって、みっともないわねぇ」

「ううううっ・・・私の家具を、馬鹿に・・・しないで」

悔しいのかポロポロと涙が零れ落ちる、だがそれは目の前の魔女をいっそう笑わせるものだった

「あっはははは、こんなことぐらいで泣き出しちゃって本当にみっともなぁい。それでもラムダデルタに祝福を受けて魔女にしてもらったの?
歴代のベアトリーチェの中でも最低な部類にはいるわね!!」

「もうそこぐらいにするがよい、我が巫女よ」

法廷のバルコニーから見ていたフェザリーヌがベルンカステルに声をかける

「はぁん?何を言ってるのよ、まだまだこれからが面白いところじゃない」

「している分には面白かろう、だが観劇する側としては飽きるものだ」

「アンタに言われたくないわよ、バケモノが」

「ベルンカステル卿、残念だが私もフェザリーヌ卿と同意見よ。」

同じくバルコニーより観劇していたセイントが口を挟む

「この茶葉を絞れっていったのはアンタでしょ?まだ絞り始めのばかりよ」

「飽きたから絞らなくて良いと言っている。これごときで泣かれては楽しむこともできぬのでな」

「・・・・チッ、本当に不快なバケモノ達ね
いいわ、一瞬で終わらせてあげる。加宮朱裡は死亡している、そしてこの世界に来ることはない!!

ベルンカステルによる赤き真実は瞬く間にシュリを襲い、彼女の体をガラスのようにひび割れ行くモノへと変化させる

「ひっ・・・ぐぅ、そ・・・んな。くぁっ、いいい・・・やめ、あんな暗いトコはいやあああああああ!!!!」

そうして哀れな黄金の魔女は存在否定のち、砕けて消えることとなった。


























ぼんやりとした視界に何かが見えてくる。
そこは暗闇、とは違った、六軒島の本館の廊下。
外は嵐がまだ止むこともなく、時折遠くのように鳴り響く雷がその廊下の全貌を露にさせる

足元に転がる死体、319の本体(オリジナル)。麻生青龍
         321の本体。斎城瑠樹
         453の本体。柳犀忍
その足元以外にも倒れる死体、死体、死体・・・・
あの日、六軒島に閉じ込められた私の仲間達。18人
私は一人で碑文を解いて黄金を発見し、九羽鳥庵へ逃げ込むことで一命を取り留めた
その私こそが、シュリ・ベアトリーチェの本体。加宮朱里

私はあの子から完全に分離できていると思い込んでいた。
だけど、初めて近衛兵を呼び出した時、思わず笑ってしまったのもある
結局、私は・・・・

仲間に支えられていないと、駄目なのだ・・・・・

リ・・・ュリ・・・

暗闇の血生臭い廊下の先から声が聞こえる
其の先は明るくて、それでいて・・・・・・・・・

「起きなさいっ!シュリ・ベアトリーチェ!!」

ハッと目を覚ますとそこは魔女の喫煙室であった。いつの間にか私はそこにある椅子の一つに座っていたのだ

「こ、ここは・・・・・」
「やぁっと起きたわね、シュリ・ベアトリーチェ」

目の前の椅子に座っていたのはラムダデルタ卿であった。

「ラ、ラムダデルタ卿?どうして・・・」
「どうして、ですって。ったく、消えそうになってたアンタを助けたのは誰だと思ってるのぉ?」
「えっ・・・・?」

そうだ、たしか私は、ベルンカステル卿に赤字で否定されて・・・・
でも、どうしてラムダデルタ卿が・・・?

「なによぉ、その顔。まるで私が助けたのが意外みたいじゃない」
「えと・・・あの・・・」
「ったく!!言いたいことがあるんならはっきりいいなさい、アンタそれでもベアトリーチェの一人なの!?」

ラムダデルタ卿は椅子から立ち上がり、私の傍まで寄ってくると両手で思いっきり私のほっぺたをつねってくる

「ひ、ひひゃいひひゃい(訳:いたい、いたい)」
「ったく、アンタの世界の私はなんでアンタの後見人になんかなったのかしらね」

フン!とそっぽを向いたラムダデルタ卿が次に私の方へ振り向いた時、今までに見たことのないような真剣な表情をしていた。

「アンタ、あそこまでやられて悔しくないの?」

ズキン・・・・
胸に鉛のような物が突き刺さるような感覚を覚える
たしかにあの瞬間は悔しかった、悲しかった・・・・でも、私にはどうすればベルンカステル卿の赤を返せるのかがわからなかった

「たしかにベルンの一撃はアンタの心臓を抉り出すには充分なものよ
だけど、そんなことで引き下がっちゃってもいいの?近衛兵達はもうちょっと抵抗してはみせようとはしたわよ
・・・ま、眷属は主の意向無しには抵抗もなにもできないのだけれどね」
「でっ・・・でも!!それなら私はどうすればいいのですかっ!?近衛兵らがいなきゃ私は追い詰められたキングのままです!
それをどう挽回しろと・・・・!」
「それはアンタ自身が考えなさい」

きっぱりとした口調だった
涙目になりながらキッと睨み付ける私をラムダデルタ卿は厳しい表情で見つめる

「私は【絶対の魔女】よ。アンタに【絶対の意思】があれば恩恵を授けるわ
だけど今のアンタにはそれをすることすら惜しいわね」
「っ・・・・・」
「悪いけどあまり悩んでいる暇はないわよ、今は私の力で消滅しそうだったあんたを隠すことができている
だけれどあとあと数分もすればこの結界は解け、フェザリーヌ達にだって見つかってしまうわ。それこそ本当の終わり、ジ・エンドよ」
「そん・・・な・・・」
「嫌なら思い出しなさい。アンタは何故黄金の魔女になったのか、そしてアンタが召還(よん)だ近衛兵達を傍に置いた理由はなんだったのか」
「思い・・・・出す?」

急に言われてもわからない、黄金の魔女になったのは碑文を解いたからであったし、近衛兵達を傍に置いたのだってそんなに大した理由なんかじゃ・・・

「黄金の魔女になるにはね、人とは違う、大きなことを望んでいるから努力をするのよ。そして私はそれの努力を祝福する
もう、わかるでしょ?」

ドクン

心臓の鼓動が一つ大きく聞こえる、そうだ・・・私は

「思い出したのね。いいわ、ならこれは私からの餞別よ」

ラムダデルタ卿が指をパチンと鳴らすとオレンジを基調としていた私の服が真っ白な凛々しいドレスへと変貌した

「その手で赤字の支配から自分の家具を取り戻しなさい」

其の言葉に私は大きくうなづく、やるべきことはもう、わかっているから
そして、その私を守ってくれたカケラから、あのカケラへと戻って行った

「なれなかったモノへの絶対なる意思・・・か、それもいいわね」

残されたカケラでラムダデルタはポツリと呟くとクスッと笑みを零して、姿を消した