シュリ・ベアトリーチェの挨拶式伝4

注意:引き続き、時間泥棒の魔女様との会合です。

シュリが次に目を開けるとそこは見知らぬ町であった

「何処よ・・・ここ」

あたりを見回しても人っ子1人見当たらない
と、空中から双頭の鷲が急降下してきたかと思うとそれの背中から1人の女性が降りてきた
白銀の腰まである髪を先だけ束ね、今日は黒を基調とした身体のラインにぴったりとしたドレスに双頭の鷲の杖を持っている
セイントだ

「・・・ゲッ、耄碌ババア」
「誰がババァじゃ、この不届きものめ」

嫌そうな顔をするシュリにセイントは不満そうに口を尖らせたがすぐに不敵な笑みをつくり

「どうじゃ、そなたのルーツのある世界の旅は」
「アンタが来るまでは上々だったわ、それより今度はこんなところに呼び出して何のようなの?」
「相変わらず減らず口を叩く小娘じゃな。・・・そなたをこの世界に召還(よんだ)のは他でもない
この世界はそなたのルーツある世界よりほんの少し分岐した世界
時間泥棒の魔女が管理する『時城市』、そなたにはここである人物に会ってもらいたい」
「・・・・断る、って言ったら?」
「もちろん、その時はシエスタ近衛兵は妾が預かることになるであろうな」
「っ、やればいいんでしょ、やればっ!!で、ある人物って誰よ」
「『時消の魔女』離操刻夢と『時間泥簿の魔女』エターナ。その二名に会うのだ」
「ふぅん、って待ちなさいよ。魔女なのはわかったけどなんでそれと私がここに連れて来られた理由は聞いていないわ!!」
「そこは・・・妾の退屈しのぎじゃ、それ以上でもそれ以下でもない
ヴィレイユらから手紙は預かっておろう?二人に関する情報はその中じゃ、ではせいぜいゆるりとバカンスでも楽しむがよい」

そういうと杖を振り、姿は幻のように消えていった

「・・・・本当に嫌なヤツ」

服のポケットをまさぐり、グシャグシャになった手紙を二通取り出すと一通目を開封し、中に入っていた資料のような紙を読む
「離操刻夢、『時消の魔女』・・・か」
「お呼びでしょうか、マスター」
「ちょうどいいわ、319。この広い町で二人を見つけるのは大変なの。手分けして探しましょう」
「かしこまりました。・・・・マスター、エターナという少女は前回あちらの世界にいたようなのですが」
「え?あ、あら・・・そうね。でもあのババァが言うのだからこっちに戻ってきてるでしょ。気にすることないわ」
「そうでございますね、それではエターナ嬢は俺と332が、離操刻夢嬢は253と321が捜索いたします」
「いい情報待ってるわ、じゃあね」
「はい、お任せを」

319らを見送って私は背伸びをした、さて、何処をブラついてみようか・・・
1、適当に歩く
2、適当に歩く
3、適当に歩く

・・・全部適当に歩くじゃ意味ないわよ、作者。
4、目についたお屋敷まで行く
やっとまともな選択肢が・・・え?屋敷?
ふと顔を上げると小さな山の上に大きな屋敷を見つける、私はどうしようもなくそこに惹かれフラフラとその場所へと向かっていった
途中で歩き疲れるとかそういったことは全くなくて、気がつけばもうそこは屋敷の門前だった
表札に出されている名前は『離操』

なんだか異常に胸の鼓動が早くなってドキドキしている、緊張なんてするたまじゃないのに
そっとその門に手をかけようとしたその瞬間!!

「誰?、貴女・・・」

振り向くとそこには青い瞳、銀色の長髪、三つ編みをした少女が立っていた
いや、知らないはずないだって私はさっきその子を見たばかりじゃないか
彼女が・・・『時消の魔女』離操刻夢・・・?

「り、離操刻夢、さん・・・?」
「人の名前を聞くより先に名乗って、誰?貴女・・・」
「も、申し訳ありません。私はシュリ・ベアトリーチェ。この世界で貴女にお会いしたくて来たばかりの魔女でございます」

変に警戒を持たれても困る、とりあえず引きつりながらも猫被りの笑みを相手に向けて礼儀正しそうにお辞儀をしてみる
「ベアトリーチェ?あの黄金の魔女の・・・・」
「は、はい。五代目黄金の魔女でございます」

しまった、と私は思う。だってまさか探索を命じていた私が本人と会ってしまうだなんて・・・
それにあの耄碌ババアから会って何をしろとも聞いてないのにっ
するとポケットに入っていたはずの一枚の紙が突然ひらひらと飛ぶと、彼女の手のひらに収まった

「・・・?なぁに、これ。カード・・・」
「はい、そちらはご紹介カードとなります、離操刻夢様」

第三者の声、それはティタニアスだった

「あら、貴女は・・・結社の」
「いいえ、刻夢様。それは別のカケラの私です。このカケラでは終焉の魔女、結社とは関係のない魔女でございます」
「そ、そうなの。ごめんなさい、少しなんだか混乱しているみたいで」
「いいえ、問題ありません。カケラとはさまざまな解釈から無限の生み出されるもの、ゆえに私たちは1人として根本が同じであっても立場が同じであるとは限りませんから」
「なんだかこっちの貴女はリリーに似てるわね」
「そうでしょうか?」
「・・・あのー」

いけないいけない、若干話しについていけなくなってしまった
私はティタニアスと離操刻夢の話の間に入っていく

「あら、ごめんなさい。シュリさん」
「それで、この子はどうしてここに?」
「ええ、それについてはもう1人の方をお待ちして・・・」

すると屋敷のある坂を二つの影が上ってくるのが見えた
「それでねっ、この前のキャンディーが飛びっきり美味しく出来上がって・・・」
「それはそれは、流石エターナ様。キャンディが美味しく出来上がる時間をよくご存知なのですね」
「1人で食べるの勿体無いくらい美味しかったの〜。でもあんな時間滅多にないかなぁ」

ヴィレイユと隣にいたのはエターナだった

「お、お姉ちゃんっ!!?」
「あ、リムだ、やっほー。ってなんだか今日も賑やかそうだね」
「さて、役者は揃いました。刻夢様、お邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
「・・・たしかにこれだけの人数だと流石にね、どうぞ」

キィィィ
と門が開いて、私たちは中に招待されたのであった

「ん、そういえば近衛兵らは?」

いけないいけない、大切な家具のこと忘れるところだった

「それでしたら心配およびませんわ、我が主が四人を召還中ですから」
「・・・召還の優先順位って面倒よね・・・」

一体どんな仕事を言いつけられているんだか

〜離操邸、客間〜

「それでは改めて、ご紹介させていただきます。こちらがシュリ・ベアトリーチェ様。黄金の魔女のゲームを模範して創られたカケラにて生まれしベアトリーチェ様です」
「よ、よろしくお願いします・・・」

相手は同年代と年下なのに緊張してしまう、少なくとも監視官みたいな二人に挟まれているというのもあるのかもしれない

「『時消の魔女』離操刻夢よ、よろしく」
「『時間泥棒の魔女』エターナですっ、よろしく!!」
「お二方に会いに来たのはほかでもございません、現在シュリ様はご自身のルーツとなるべく黄金のゲーム盤の探索をしております、しかし我が主の提案でこちらの世界にも回ることができました
ただしこちらの世界に滞在するには三人の時間泥棒の魔女の許可をいただかねばなりません。偽神の魔女であるリリー様からはお二方の同意のもとでもう一度来るようにと承っております」
「・・・いきなりな話ね」
「んー、私も反対はしてないけど許可って堅苦しいなぁ」
「先にお断りいたしますが、この件に関しましては強制をするものではございません、滞在に関してもおそらく気まぐれに、ということになってしまうことでしょう。
それでもよろしければ、のお話です」

私だって何か言いたいけど多分監視官の二人に何か挟まれるのがオチだろうし、特に言うことはないかな・・・

「シュリさんは、どうなんですか?」
「え?わ、私ですか?」

いきなり刻夢さんに話を振られて驚く私、だってまさかそんなこと聞かれるとは・・・
あ、でも横から痛い視線が来た

「え、えと・・・まだ来たばかりの町ですけどいい町だなぁって・・・」
「そうですか・・・では『時消の魔女』離操刻夢の名において、滞在は許可しません」

「へ・・・ぇ?」
突然のことに驚きを隠せない私、だけど隣にいたティタニアスもヴィレイユも微動だにはしてなかった
エターナって子さえも驚いてもいなかった

「時城市を管理してきた離操家当主としても、『時消の魔女』としても貴女の滞在は許可できませんと言ったのです、どうぞお引取りを」
「かしこまりました、『時消の魔女』の魔女様のお考えがそうであるのならばそういたしましょう、ちなみにエターナ様はどうなのでしょうか?」
「うーん、まぁリムが言うのなら仕方ないかな。仲良くなれそうだったかもしれないのに、残念」
「ちょ、ちょっと待って!!お願いしにきた身だけど納得いかないわ!!どうして許可してくれないの!?」
「シュリさん、貴女はそれが本心ですか?」
「な・・・に・・・」
「いえ、忘れてください。エターナお姉ちゃん、ちょっと来て」
「なになにー?リムったら恋の話〜?」
「違うってば!!」
「・・・それでは、私たちも帰りましょう、シュリさん」

ヴィレイユに叩かれた肩からヒンヤリとした冷たい悪寒が走るのに、私はその言葉に従うしかなかった

シュリ達が出ていた後の離操家、地下
鏡に映ったリリーとその鏡を見ているリムとエターナ

『・・・そうですか、彼女を追い払ったのですね』
「これでよかったんですよね、リリーさん」
「私は強引すぎると思ったけどなー」
『エターナは危機感がなさすぎです、彼女は、いえ彼女の後ろにいる主は危険人物そのもの
しかしこの世界ではその主を追い出す以外で手は打てません、少し可愛そうな気もしますが、それでもこの世界を守るために彼女を闊歩させるわけにはいかなかったのです』
「彼女、シュリ・ベアトリーチェはどこか自分の意思では物事を伝えることができないように感じました。これもその主という存在の影響に思えたのですけど」
『・・・それについては私もわかりません、何よりいえることは。あの少女のバックホーンはおそらく残忍さはベルンカステル卿以上かと、とにかく今回私たちの任務は終わりました。今後ともよろしくお願いしますね。」
「ラジャー、っとそろそろ私も十夜達のところ戻らないと、心配されちゃう」
「じゃあね、お姉ちゃん。また明日」
「またねー!!」

ー???−
「『じゃあね、お姉ちゃん。また明日』・・・かクックックックッ」
薄暗い書斎の中、カケラを鑑賞していたセイントは薄気味悪い笑みを浮かべていた

「吐き気がするぐらいの世界よね、そこは・・・もっと違うカケラを鑑賞させてよ」
ベルンカステルが不機嫌そうに呟く、というのもこのカケラの鑑賞よりもゲーム作成を続けたいというような表情でもあった

「そう急くことでもなかろう、我が巫女よ。長き退屈よりも一回の鑑賞の方が病気も癒えるというものよ」
同じくカケラを鑑賞していたフェザリーヌが諭すように声をかけつつ紅茶を飲んでいた

「生憎だけどね、アウアウローラ。私はこんな苦味のなくなったような紅茶の世界なんて大嫌いなの」
「たしかにこの世界はどのカケラの物語も終結はしておる、そして苦味のなくなったといえば的確でもあるしそうでもなかろう」
「しかしセイント卿。茶葉を淹れすぎた紅茶は飲めるものでもないぞ?」
「それはわかっておるともフェザリーヌ卿。じゃが妾の茶葉は濃すぎず、または薄めすぎることもなく働いてくれる、これこそ究極の茶葉とは言えぬか?」
「・・・それは自画自賛よ、茶葉はどんなにしたって茶葉にしかすぎないわ、究極なんてものはアリエナイ」
「これはこれは手厳しい巫女殿であるな、たしかに自画自賛かもしれない、じゃが究極かどうかは主である私が決める、それは誰にも否定させない」
「・・・困ったロリババアね」
「ほめ言葉としてとっておこうぞ、いささか聞きなれぬ言葉でもあるのでな」

上機嫌にクスクスと笑うセイントにベルンカステルはフンとそっぽを向いた

「さぁて、機は熟した。そろそろ茶葉をあのカケラに放り込んでもよかろう」
「おお、あの生温いミルクのようなカケラへか、これはとても見ものだな」
「・・・やっていられないわ、私は別のカケラを見てくる」
「いいや、ベルンカステル卿。これはそなたがいなければ完成できぬのだ。鑑賞、いや干渉か、お願いしてもよいかな?」
「・・・私が興味あるのはそのゲロカス妄想伝を引っぺがしてやるだけよ、あとは興味ないわ」
「まさにそれをしてもらいたいのよ、そなたであれば造作もないことであろう・・・?」

それを聞くとベルンカステルの表情はにやぁっと意地の悪い笑みへと変わる
「いいの?そのコの心臓ひねり潰すどころかミキサーにかけちゃうようなことしても」
「問題ない、むしろそれを何度も楽しむのがバケモノの身としては面白おかしくて仕方がないものよ」
「あはははは、そうね、私も次のEPを考える前にそういったことの一つや二つやっておかないとね!!いいわ、付き合ってあげる、セイント・ジョスール・メイデント卿
アンタが連れて来た茶葉を絞って絞って絞りまくってやってそれでもまだ残りカスが乾かないように濡らして何度も絞ってあげるわ!!」
「くひゃひゃひゃひゃ、それはいい考えだ、ベルンカステル卿。そなたが私の巫女でないのが悔やまれるというものよ、アヤツは駒ではないただの紅茶の茶葉よ、それで何度も遊んでいただけるのは
実に滑稽である!何度も絞ってやれ、そして病を忘れさせるような悲鳴を聞かせよ。甘美な悲鳴をな!!」

ゲラゲラと笑い続けるベルンカステルとセイントをよそ目にフェザリーヌは座っていた椅子の背後を見る
その後ろには粉々になったウサギの置物が四体、壊れているのにふっと笑みを零したのであった

続く