シュリ・ベアトリーチェと挨拶式伝2

前回

混濁の闇の中で誰かの悲鳴が聞こえる、そして同じく雄たけびが
ああ、そうだ、ここはワタシの世界・・・
ニンゲンであったワタシは悲しみにくれ、ワタシはそれを見下ろしている
そして彼女は半狂乱になりながら私との決別を口にした
その瞬間から、私は本当の魔女となったのだ

「ま・・・・リさま・・・シュリ様、起きてください。」
「ん・・・ぅ」

眠たい目を擦りながら起き上がると真っ直ぐに目に飛び込んできたのはウサギ耳
シエスタ319と332が心配そうに私の顔を覗き込んでいたのだった

「ようやくお目覚めですか、マスター」
「うなされとったみたいで心配しとったんですわ、何か不安なことでもあったんですん?」

この二人は双子の癖に考えることも言うこともバラバラだ
もっとも、それが私にとっても飽きない家具でいてくれる理由の一つであるのだけれどね

「大丈夫よ、ちょっと夢をみていただけ
それに、今日からは忙しいわよ、なにせこちらのカケラの魔女様達に一通り挨拶をしなきゃならないのだから」
「了解いたしております。本日最初の挨拶の魔女様ですが・・・」
「わかっているわ、着替えたら行く準備するから、しばらく待っていて頂戴」

了解と返事をして姿を消す二人
姿が見えなくなってから布団から起き上がってふと手を見てみる

「・・・大丈夫、私はここにいる。もうあの子とリンクしていなくたって平気なんだから」




シュリ・ベアトリーチェの挨拶式伝2


ーケース1、ベルンカステルとラムダデルタの場合ー
魔女のお茶会の会場へと向かうとそこにベルンカステル卿とラムダデルタ卿が一緒にいた。

「あらぁ?珍しいお客がいたみたいね」
「そうね、どこぞのカケラから迷い込んだと言うわけではなさそうだけれども・・・」

二卿はクスクスと品定めするかのように私を見てくる
退屈を愛さない方達だ、どうせ暇つぶしに遊ばれるのが関の山
それならこちらにとて策はある

「お初にお目にかかります、ラムダデルタ卿、ベルンカステル卿。私はシュリ・ベアトリーチェ
数多あるカケラの海の一つから参りました。五代目のベアトリーチェです。どうぞご贔屓に」

「・・・ベアトリーチェ?アンタが?」

「ということは別のカケラで私かラムダが後見人だったってことになるわよね」

「はい、私のカケラではラムダデルタ卿が後見人でした。」

「また私ぃ?・・・なんかすっごく安上がりっぽいのだけど」

「いいんじゃない、少なくとも私が祝福するニンゲンではなかったってことだろうし」

「ベルンのいじわるぅ。
ま、少なくとも私が祝福したのならそれなりの努力はしただろうってことだしわからなくても認めるしかないわね」

「ありがとうございます。まずは手土産にとお二方にはカケラをお持ちいたしました」

私はスッと一つのカケラを差し出す

「あら、それは・・・・」
「随分とよくわかってるじゃない、クスクス。私は気に入ったわよ、シュリ・ベアトリーチェ」
「ええ、それでは二卿。存分に『私の生まれたカケラ』をお楽しみください」

そういって礼をしながらその場を去ると二人は早速あのカケラの鑑賞に入ったようだった

「さぁ、次は・・・・・」

ケース2
ーロノウェと  の場合ー
一度引き上げて自室のように使わせてもらっている部屋に戻るとそこにはロノウェがいた
「おや、シュリ様。お早いお戻りでしたね」
「ええ、ちょっとメモの戻り口をね・・・・ロノウェは掃除?」
「もちろんでございますとも。執事たるもの、家事だけではなく掃除もできねばなりませぬからね、ぷっくっく」
「・・・そう」

正直に言うと引っかかることが多い言い方だけれど私は気にせずに昨晩に書いたメモを探す
何のメモかはあえて言わないけどね

「・・・あれ?」

メモが、ない
昨日のうちにはベッド近くに置いてあったはずなのに
それに今朝出る時はまだあったはずなのに

「ロノウェ」
「・・・はい、どうかなさいましたか?」
「ベッド周り、触った?」
「いいえ、メイキング以外はさせていただいておりません」
「・・・赤でいえるのかしら」
「<font color=red>ベッドメイキング以外ベッドには触っておりません。</font>
これでよろしいですかな」
「そう、ありがとう」

もうそこまで聞けば十分だ

「332、探知して」

それだけを言うと332は姿を現して耳をひょこひょこと動かす

「魔力反応は現在3、マスターの分も含めてでっせ」
「そう、ありがと。で、いるのでしょ。ガァプ」

私がそういうと天井に大きな穴が開いてそこからガァプが降りてくる

「あら、あっけなく見つかっちゃった。もー、ロノウェったらちゃんと隠してよぉ」
「ちゃんと隠したつもりでしたよ。もっともシエスタの能力には敵わなかったということでしょうね」
「ロノウェも共犯だったのね、どおりで視覚では見つからないはずだわ」

ガァプが隠れたのにロノウェが隠密の結界を張れば簡単に視覚化はできない
ただ、シエスタのに引っかかったのはそれこそロノウェが本気で隠そうとはしていなかっただろうけど

「とにかく、ガァプは隠したメモ返して。それとロノウェは掃除はいいから出て行って」
「かしこまりました、綺麗に使っていただいて私としても大助かりなのですけどね、ぷっくっく」
「もぅ、ちょっとした悪戯じゃないの、シュリーチェったら」
「い、いから出て行って」

パタンと扉を閉めるとふぅ、と一息をつく
するとドアからヌゥッと手が出てくる、能力はガァプのだがそれはロノウェの手だった

「そうそう、シュリ様宛にこちらの手紙が届いておりました。ご一読ください」

そういうと持っていた手紙を落としてそのまま手は引っ込んだのであった
それを拾い上げて見る、その手紙の封蝋は双頭の鴉の刻印が押されていた。
それを乱暴に破り空けると一枚のカードが落ちる

『時間は止まらない、そして戻らない
貴女はけして、戻れない』

「わかッ、てるわよッ。そんなこと!!」

グシャリとそのカードを足で踏みつける、何度も、何度だって踏みつけてやる!!

「・・・マスター・ベアトリーチェ」

ふと声がするとまだ還っていなかった332が心配そうにこちらを見ていた、それに気付いて私はようやく落ち着きを取り戻す
踏まれたカードはもはや文字も読めないほどにぐしゃぐしゃになっているがもう一度踏みつけてからそれをゴミ箱に捨てた

「気持ちも晴れたし、次のところいくわよ」
「はい、マスター」

ケース3ーエヴァ・ベアトリーチェの場合ー
庭園を歩いていくとその端の方で人影を見つけた、ジッと身動き一つしないので最初は人形かと思った
ふとその人影がこっちを向いた

「あら、アンタ誰?」
「私はシュリ・ベアトリーチェと申します。お初にお目にかかります・・・ええっと」

幻想側の魔女は一通り知ってるはずだったがすぐに顔と名前が一致せずにいると目の前の人物はため息をついて持っていた杖を私の目の前に振りかざした

「私はエヴァ・ベアトリーチェよぅ、それぐらい覚えておきなさい」
「申し訳ありません、エヴァ・ベアトリーチェ。三代目様ですね、失礼いたしました」
「ったく、何代目か知らないけれどベアトリーチェの名前ぐらい全員おぼえておいたらぁ?」
「大変失礼いたしました、以後気をつけます。」

苦手な部類だと思っていたのがバレたのだろうか、エヴァは再度ため息をつくと悪態をつきながらさっさと屋敷の方向へと戻っていってしまった
何気なくそれを目で追うとエヴァの隣に小さな女の子が現れていた
銀色の長髪に魔女特有の青い目、でも私はその子のこと知らないしわからない

「319、あの子・・・誰?」
「申し訳ありません、マスター。データベースにはその他のカケラの魔女様は登録されていませんのでお答えできません」
「・・・そう、いいわ。魔女であるならばまた出会えるかもしれないし」
「一応、仮登録だけは完了いたしましたが、いかがなさいますか」
「ええ、そうね。本登録はまた後日、ということにしましょう」
「かしこまりました、マスター」

ケース4−原初の魔女マリアとエンジェ・ベアトリーチェの場合ー
更に庭園の奥深くまで行くと今度は何処からか笑い声が聞こえる、その方向へ向かうと原初の魔女マリアとエンジェ・ベアトリーチェが七姉妹やさくたろうも加えてトランプで遊んでいる最中であった

「あーん、、マモンったらズルイ。また私のいいカードとったぁ」
「レヴィアお姉さまは毎回すっとろいんですから、はい、エンジェ様の番ですよ」
「うりゅ、マモンの次は僕だよ、あとエンジェにひっついてるから遠くて取れないよ」
「うー、でも皆とできて楽しいからいいんじゃないかな?マリアは順番にできなくても楽しければ賛成だよ」
「いいえ、そういう訳にはいきません。マリア卿!マモン、順番は守りなさい!」
「サタンお姉さまが怒った、こわぁい」
「それよりお腹すいたのー、ロノウェ様のクッキーたべたぁい」
「ベルゼはさっきもつまみぐいに行って怒られて帰ってきたんだろう?二度目はないぞ」
「ベルフェお姉さまだってさっき行きそこねたって嘆いていらっしゃったじゃないですかぁ」
「そ、そんなことないぞ。アスモ。お前だってベルゼとは別に行ったのに一緒に怒られて帰ってきたじゃないか」
「ああもう、煩いわよ。愚妹達!集中できないじゃない」
「ルシ姉集中してたのぉ?とてもそんな風に見えなくってごめんなさぁい」
「皆もルシファーをからかわないの。さ、ゲームを・・・」

エンジェがそこまで言ってようやく私の存在に気付いた

「あら、見ない顔ね。誰?」
「うー?ひょっとしてベアトが言ってたオキャクサマ?」
「うりゅ、なんだか怖い・・・」
「いいえ、こちらこそお楽しみに途中にお邪魔して申し訳ありません。
原初の魔女見習い、マリア卿。それに四代目ベアトリーチェ、エンジェ卿
私はシュリ・ベアトリーチェ、数多のカケラの一つより参りました、五代目のベアトリーチェでございます」
「うー、ならエンジェと同じ!称号は?エンジェはベアトリーチェでも反魂の魔法が使えるの!」
「ええ、存じております。ですが私はまだこのカケラでは希薄な存在。唯一の称号はベアトリーチェを襲名した時に与えられた黄金と無限のみです」
「ベアトリーチェって結構性悪のニンゲンが継ぐ称号だと思ってるけど、貴女もそうみたいね」
「それはどうでしょうか、私は自身を普通だと思っていますので」
「そう、まぁ自意識過剰じゃないかどうかだなんて他人にはわからないけどね
・・・・あら?七姉妹?」

ふいっと顔を背けたエンジェはさっきまでいた七姉妹がいないのに気付く

「七姉妹はおそらく恐れで去っていってしまったんでしょう、仕方のないことです」
「どういうことよ、それ・・・・」
「332、319」
「「お呼びですか、マスター」」

黄金の蝶の乱舞と共に現れた332と319に二人は驚いた顔をしていた
くすくす、そんな顔されると私の意地悪な部分が鎌首を擡げてきちゃいそう

「シエスタ・・・?それも、別の形状の・・・」
「ええ、そうです。マリア卿。彼らはシエスタ近衛兵。私の家具です
前回、二代目様とドンパチしてしてしまったので七姉妹も恐れがあるようで」
「気に入らないわね、それ」
「おや、これは失礼いたしました。エンジェ卿、七姉妹は貴女の良き家具でしたものね。
そしてマリアージュ・ソルシエールの大切な友人でもありましたっけ」
「う、りゅ・・・そうだよ、ボク達はマリアやエンジェの友達だもん。」
「クスクス、そうでしたね。すっかり怖がらせてしまったようでしたので私はこれにて失礼いたします、それでは」

そう言って私は三人に軽くお辞儀を返すとその場を後にした

「マスター、いくらんでもやりすぎとちゃいますか?」
「332の言うとおりです、あまりにも大人気ない・・・いえ、マスターらしくないというか」
「いいのよ、あんな平和ボケてるヤツらにはいい薬でしょ。それに、七姉妹もあんなお遊びに付き合うだなんて、家具の身の程をしれというものよ」
「「マスター・・・・」」

そう、あんな平和ボケたのなんて私は大嫌い、ワタシの世界を思い出しそうで余計に不快になる
だから私は魔女なのだ、平和を打ち壊し、血と惨劇に塗れたゲームを展開する
それ以外の役割を魔女は持ってはならないんだ、私のような・・・黒き魔女には底なしの沼がお似合いなのだから

fin